2013年01月21日 公開
2023年09月15日 更新
尖閣諸島周辺における中国公船や航空機による領海・領空侵犯が常態化している。現状を物理的な力によって無理矢理変更しようとする中国の非平和的な行為は、日中間でいつ偶発的な事故が起こってもおかしくない危険な状況を生み出している。
東シナ海や南シナ海で中国が現在取っている行動 ―― 物理的・経済的な力で恫喝を加えることにより相手国の譲歩を引き出し、自国の主張を押し通そうとする手法 ―― は、中国が唱える「平和発展」を空疎に響かせ、周辺国の対中懸念を強めることになっている。4年前、信頼する中国人研究者に、中国は覇権国家になるのではないかという懸念をぶつけると、彼は「そんなことは絶対にありえません。中国は多くの隣国に囲まれた国です。中国が単独的な行動を取れば、周辺諸国の対中警戒が高まる。結局のところ中国の安全保障環境は悪化することになり、そんな愚かな政策は取れません」と話していた。当時、その話に同意を示しつつも、問題はそのような見方が中国国内でどれくらい影響力を持つかだと返したが、今の中国は、残念ながらまさにその“愚かな政策”を地で行ってしまっている。強引な外交政策は、一時的には中国が有利に物事を進めるのに効果的な手法に見えるかもしれないが、周辺国の警戒と反感は、中長期的には中国の国益を損なうことになるだろう。
国内外の多くの中国研究者は、現在の中国の対外政策が国際関係や対外的な配慮からではなく、国内的要因によって動かされていると指摘する。ある人は、習近平総書記は軍の強硬派を支持することにより、軍における権力基盤を強化しようとしていると説明する。江沢民は軍における対台湾強硬派を支持することにより、軍における権力基盤を強化しようとしたが、胡錦涛は逆に穏健派を支持することにより軍の支持を得ようとした。今度は逆に強硬派が支持されている、というわけである。
またある人は、尖閣問題は台湾の代わりであると言う。人民解放軍にとって最大の任務は台湾解放であるが、目下のところ中台関係は安定している。尖閣は軍が発言力や予算を増すための格好の標的となったというわけである。
また別の人は、尖閣問題に関する日本外務省の広報が強化され、日本の主張を強化することになる中国外交部の資料が最近発見されたこと等により、国際法の観点からは勝ち目がないと考えた中国政府が、物理的手段を強化することになったと説明する。いずれにせよ、実際の政策決定過程が不透明であり、どのような主体がどのような目的で対外政策を決定しているのかが外部からは見えにくいのが、さらに中国への懸念を増す結果となっている。
中国内でも、現在の自国の対外政策に懸念をもつ人々は存在する。日中関係に携わる人々や、自国の国益を冷静に判断する能力のある人、平和な暮らしを望む庶民は、現在の不穏な状況に不安を抱いている。
例えば、著名な国際政治学者である北京大学の王緝思教授は昨年秋、「中国地勢戦略のリバランス」という文章の中で、中国は地勢戦略を見直し、「西進」戦略を採用すべしというアイデアを発表した。王教授の主張を要約すると、(1)中国国内の西部大開発にとって、中国南部、中部、北部を結ぶ“新シルクロード”の建設及び、南アジア、中央アジア、中東、カスピ海諸国の資源と経済発展、それらの国との経済協力が極めて重要である、(2)中国西部はユーラシア大陸の中心であり、地政学的に非常に重要な意味を持つ、(3)アメリカを含めた大国がこれらの地域への関与を深めるようになっている。東アジアにおける米中の競争はゼロサムの様相を強く呈するようになっているが、「西進」政策においては、米中は様々な分野で協力を深めることができ軍事的に対立する危険もほとんどない。この王教授の主張は、東シナ海や南シナ海におけるアメリカや周辺諸国との摩擦を緩和するための知恵として打ち出されたのではないかと推測される。
ただ残念ながら、いま中国ではそのような理性的な声ではなく、強硬で乱暴な議論をする人の声がますます大きくなっている。中国のテレビや新聞に「主権と領土を守るために戦争も辞さず」という主張をする軍人や評論家が頻繁に登場し、「2013年日中はいつ開戦するか」という内容が番組のテーマになったりする。中国インターネットの検索サイトで「中日」と入力すると、続くワードの候補として「中日釣魚島(尖閣)交戦」や「中日開戦」というおどろおどろしい言葉が出てくる始末である。このような強硬な主張は、声は大きいわりに、実際の政策への影響は限定されている。とはいえ、中国社会に広がる雰囲気が中国の政策に間接的影響を及ぼす可能性は否定できず、日本企業の活動に悪影響を及ぼすことも懸念される。
誠に憂慮すべき状況だが、日本が注意すべきは、こちらも感情的になり、日中間の騒ぎを大きくすることに利益を感じている人々の思惑に、むざむざ乗るような状況に陥ってはならないということである。海上警備や防衛力を整備し、危機管理能力を高める努力をするのは当然だが、同時に、日本は冷静で平和を尊重する国であり、中国の行動に困惑しているが決して感情的に対応しようとしていないという姿勢を示す必要がある。外国メディアなどが日中間の摩擦について報じる際、しばしば「日中ともに頭を冷やせ」というような記述が見られるが、日本側は冷静だという認識を持ってもらえるような政策と広報が求められる。鳩山氏のように中国側に利用されるだけの言動を政治家が慎むべきは当然として、「日本は好戦的で過去の歴史を反省しない」という中国の対外宣伝に力を与えるような政策を取ることも避けることが賢明だろう。
<研究員プロフィール:前田宏子>☆外部リンク
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更新:11月22日 00:05