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習近平体制の発足で、日中関係に変化はあるか

2012年11月26日 公開
2024年12月16日 更新

前田宏子(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

前田宏子

 第18回党大会で、予想されていた通り習近平を総書記とする新しい指導部が発足した。新指導部の陣容については既に色々なところで言及されているので詳述しないが、江沢民元総書記の意向が強く反映された顔ぶれとなり、多くの日本人にとっては、軽い失望感を禁じえない結果だったのではないかと推測される。

 そのような話を中国人の友人としていると、「日本人は団派(共産主義青年団出身)を贔屓する傾向があるが、(政治改革に積極的と言われている)李源潮や汪洋が常務委員になったとしても、政治改革がスムーズに進むわけではない。実際、胡錦濤もできなかったのだから」という反応が返ってきた。新指導部が発足したというのに、外国人から消極的なコメントばかりを聞かされ面白くないという雰囲気も伝わってきたが、彼らが言うことも分からないではない。

 確かに、今の中国では誰が指導者となっても、既得権益層の反対を抑え政治改革を進めるのは極めて困難である。とはいえ、政治改革への志向性をもつ人物が一人でも多く指導部にいた方が、少なくともいないよりはマシと考えるのは普通だろう。また、今回の党大会の人事については、中国の政治制度や指導者たちについてよく知らない人も、良い印象を持たなかった印象がある。民衆から見えない舞台裏で、現在はいち党員にすぎないはずの江沢民らが権勢をふるっている様が、中国政治の閉鎖性と特殊性をあらためて人々に認識させることになったためではないかと思われる。

 総書記を辞める胡錦濤も、新しくその任についた習近平も、党大会で強調したのは「腐敗が党と国を滅ぼす」ということだった。同時に、胡錦濤は「海洋権益を守り、海洋強国を建設する」と宣言し、習近平は「中華民族の偉大な復興」という言葉を繰り返した。党の団結、党の指導に対する民衆の支持が揺らいでいることへの危機感があり、そのことが、ナショナリズムへ訴える方向により舵を切らせる原因ともなっている。

 国力が大きくなるに従い主張も強くなってくるのは仕方がない部分もあるが、その主張を経済的・軍事的圧力を加えることにより押し通そうとする態度は決して受け入れられない。鄧 〈トウ〉 小平は、経済発展を優先し、他国との衝突を回避する対外路線を敷いたが、最近の中国は、多少の経済的利益を犠牲にしても、主権や安全保障問題で譲歩しないという姿勢を示すようになっている。日中関係も尖閣諸島をめぐり厳しい状況が続いており、習近平体制が発足した後も、劇的な関係改善がすぐに起こるとは考えにくい。中国公船の尖閣周辺海域への侵入が常態化しているが、このような緊張状態が当分の間続くと予測される。

 中国が、主権や安全保障の問題により重点を置くようになったのは、それだけの経済的余裕ができたからである。中国共産党は、自らの支配の正当性を抗日戦争の勝利と経済発展の実現に求めているが(そして最近では「強い中国」がそこに加わりつつあるが)、建前はともかく、民衆から支持を得るため最も重要な要素は経済成長の実現であることに変わりはない。

 党は、経済成長と強い治安維持力によって何とか国を統治しているが、日中経済の停滞が国内経済に与える負の影響と、更にそれが中国社会に与える負の影響を真面目に分析し、理解している人々は、実はそれほど多くないのではないかと思われる。今後、そのような事実を認識する人が中国でも増えれば、実務的な協議は進められる可能性がある。

 前向きな兆候が全くないわけではない。中国の権力移譲が落ち着き、日本でも総選挙が終われば、現状をさらに悪化させないための協議や危機管理、実務的な対話は再開される可能性が大きい。日中韓FTA交渉の開始が合意されたのは、一つの良い兆候である。また、北京在住の知人によれば、木寺昌人大使の赴任時期が決まったり、延期されていた日中文化交流イベントの開催が決定されたり、日本大使館前のバリケードが取れたりと、党大会が終わり、ようやく日中関係が動き出した感があるとのこと。尖閣問題で安易な譲歩を行うことはできないが、安全保障や政治の問題を、経済や他の分野に波及させるべきでないという呼びかけを中国側に行い、その努力を続けていくことが大切である。

<研究員プロフィール:前田宏子>☆外部リンク

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