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「反米論」は百害あって一利なし

2012年12月05日 公開
2022年11月09日 更新

潮匡人(評論家/国家基本問題研究所客員研究員)

中国が恐れるオスプレイの性能

では、やはり危険な輸送機なのか。必ずしも、そうとは言えない。現に、一部マスコミが煽るほどの危険性は実証されていない。ゆえに、他の機種と比べ、格別に危険な輸送機であるかのごとく喧伝する姿勢は公正さを欠くのではないか。

もしオスプレイがダメだというなら、引き続き、CH-46Eが飛ぶことになってしまう。この輸送機は、自衛隊も退役させた古い機種であり、20年前に製造が終了している。いまも軍用として飛ばしているのは米海兵隊だけである。老朽化した機種を、これ以上、普天間で継続使用することは、それこそ安全性の観点からも疑問が残る。

なのに、マスコミ報道の多くが、オスプレイの危険性だけを煽る。オスプレイが岩国に陸揚げされた7月23日放送の「NHKニュース7」は冒頭、上空から撮影したオスプレイの映像を流し、「反対や不安の声が上がるなか」云々と報道。ロンドン五輪などの話題を押しのけ、トップで扱い、「安全性への懸念が高まるなか陸揚げされました」と報じた。以下、多くの報道が「不安の声」や「安全性への懸念」を強調する。

ならば同時に、オスプレイ配備の意義も語るべきであろう。オスプレイは「CH-46Eに比べ、速度2倍、搭載量3倍、行動半径4倍という優れた性能を有している」(防衛省)。

端的に言えば、懸案の尖閣諸島を行動範囲に収められる。報告書を補足すれば、CH-46と違い、空中給油を受けられる。艦船に搭載して運用することもできる。

ゆえに朝鮮半島、台湾海峡に加え、中国が聖域化を図る南シナ海へも抑止が効く。中国の対艦ミサイルの射程外からも運用できる。前述したアーミテージ報告が敷衍した、中国の「A2AD(接近阻止・領域拒否)」に対抗する、米軍の新戦略「統合エア・シー・バトル(JASB)」構想ないし「統合接近作戦構想(JOAC)」の柱を担う。

もちろん日本の安全保障にも有効であり、邦人救出や「トモダチ作戦」のような運用にも大きな力を発揮できる。実際、先日も山火事の消防活動に出動した。だがそれを、一部のマスコミは「米軍ヘリ」が出動したとしか報じない。意地でも「オスプレイ」とは言いたくないのかもしれないが、オスプレイは「ヘリ」(回転翼機)ではない。あえて言えば、垂直離着陸できる固定翼機である。

詳しくは、山田吉彦教授(東海大学)と私の対談書『尖閣激突』(扶桑社)に委ねるが、今後オスプレイの安定的な運用は、中国の海洋進出に対抗するうえで、決定的な意味を持つ。

だが、マスコミ報道の多くが、こうした配備の意義や抑止効果に言及しない。中国を刺激したくない本音が覗く。政府もマスコミも、中国の反発を恐れず、正面から配備の意義を語るべきではないだろうか。

 

日本国の主体性はどこに?

問われるべきは、日本国としての主体性であろう。野田佳彦総理は、去る7月16日、フジテレビの番組で「配備自体は米国政府の方針だ。どうしろ、こうしろという話ではない」と語った。安保条約や交換公文を念頭に置いた発言であろうが、自国民に向けたメッセージとしては表現が乱暴に過ぎよう。結果、国民の反米感情は増した。

政府への、政治そのものへの信頼が揺らいでいる以上、いくら政府が「安全性は十分に確認された」と宣言しても、国民の安心には繋がらない。

そもそも、絶対に安全な航空機やヘリなど存在しない。特に、垂直離着陸時の危険性が高い。軍用機なら、なおさらである。

もし3度、事故が起きれば、オスプレイの運用はおろか、日米同盟そのものが危機に瀕する。2004年に起きた沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落事故では、米軍のMP(憲兵)に阻まれ、沖縄県警や消防は現場検証すらできなかった。万一あれが再現すれば、「全基地閉鎖」(沖縄県知事)ともなりかねない。

そうならないためにも、日本政府は最大限の努力をすべきだ。リスクを直視した危機管理に万全を期すべきであろう。本土への訓練移転も鋭意、進めるべきだ。そのうえで、日本政府の責任において安全性を説明してほしい。

地元との交渉が円滑に進まない原因としては、従来、基地行政を担当してきた旧防衛施設庁が、不祥事により解体された経緯も大きい。今回のオスプレイ騒動は、日米同盟が抱える問題を浮き彫りにしたとも言えよう。

オスプレイの危険性と、国民の反米感情を煽るだけでは、問題は解決しない。配備の意義と一定のリスクを踏まえた公正かつ冷静な議論を期待したい。

 

潮 匡人(うしお・まさと)

評論家、拓殖大学日本文化研究所客員教授
 昭和35年(1960年)、青森県生まれ。早稲田大学法学部卒。同大学院法学研究科博士課程前期課程修了。防衛庁・航空自衛隊勤務、元三等空佐。書籍編集者、シンクタンク研究員、聖学院大学専任講師、旧防衛庁広報誌編集長、帝京大学准教授等を経て現在に至る。拓殖大学日本文化研究所客員教授、国家基本問題研究所評議員、評論家。
著書に『アメリカが日本を捨てる日』(講談社)『常識としての軍事学』(中公新書ラクレ)『自衛隊はどこまで強いのか(共著)』(講談社+α新書)『日本を惑わすリベラル教徒たち』(産経新聞出版)『司馬史観と太平洋戦争』『日本人として読んでおきたい保守の名著』(以上、PHP新書)などがある。

 

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