2012年11月23日 公開
2023年09月15日 更新
政策シンクタンク PHP総研では、来る総選挙に向け、「2012年総選挙に望むこと ~政治への信頼を回復させ、日本を活性化させるために~」を発表しました。
総選挙に臨む各党が、国民の選択のために何を明らかにすべきなのかを、経済、地方行政、教育、外交・安全保障、政治への信頼の観点から提言するものです。
ここでは、2回に分け、その内容をご紹介いたします。
2012年総選挙に望むこと
~政治への信頼を回復させ、日本を活性化させるために~
【 提言3 】
安心して楽しく学べる環境づくりとグローバル人材を育てる教育政策を示せ
(1)いじめ問題への対応策を明らかに
学校現場ではいじめはつねに大きな問題として存在している。大津市のいじめ事件を契機に政府はいじめに関する総合的な取組方針を公表したものの、その内容はこれまでどおりの施策の列挙であった。子どもにとっては、学校が「安心して楽しく学べる場」であることが何より重要であり、その実現に向けた政策の優先順位を各党は明らかにすべきである。また、いじめ問題への対応には教員の質と量を確保することが欠かせない。現職教員の質を高める校内研修の充実や加配教員を増員する定数改善計画の策定など、具体策への言及が望まれる。
(2)教育委員会の廃止について見解を示す
昭和31年の現行制度創設以来、教育委員会制度の大きな見直しは行われておらず、当時の枠組みが維持され続けている。いじめ問題への対応に際しても、教育委員会の形骸化や責任の所在のあいまいさが問題となった。近年では地方分権改革推進委員会が教育委員会設置の選択制導入を勧告し、知事会や市長会なども見直しの必要性を提言している。政府は教育委員会制度の在り方について部内で検討しているというが、結論だけでなく検討過程もいまだ公表されていない。社会情勢の変化に応じて教育委員会制度を見直すべき時機が到来しており、各党は教育委員会廃止に関する姿勢を明確に示すべきである。
(3)大学教育の質の向上をはかる具体策を明らかに
グローバル人材を育成し、日本の国力を強化するためにも大学教育の質向上が求められている。大学と産業界・地域との連携も課題となっている。OECD諸国のなかで見劣りのする公費支出の充実をはかると同時に、大学に対する資源配分にメリハリをつけ、教育と研究それぞれの面での競争的な支援策を通じ、大学の努力を促進しなければならない。財政支援を行う場合、教員や学生の流動性を確保する方策の実施を支援の条件とすることも検討すべきだろう。大学に対する第三者評価は、導入されて10年近くが経過しているが、その効果は十分ではなく、根本的な見直しが必要である。世界トップレベルの大学と伍していけるよう、日本の大学の競争力を高める具体策の提示が求められる。
【 提言4 】
緊張の常態化とパワー・シフトに立ち向かう外交・安全保障政策を示せ
(1)自己周縁化から脱却する体系的構想を描く
中国の急速な台頭は日本の戦略環境を大きく変えつつある。インドなど中国以外にも大型の新興国が力をつけてきており、先進国が圧倒的に優越する国際秩序は過去のものとなりつつある。こうした中、安倍内閣以降の政権の短命化、民主党政権の未熟な外交指導は、日本を実力以上に「自己周縁化(self-marginalization)」してきた。各党は、日本がいかにして自己周縁化を脱し、パワー・シフトの中でどう生きていくのかを体系的に示さねばならない。
(2)シームレスな有事対応を可能にする方策を具体化する
尖閣諸島を巡る日中の軋轢は、日本の領土領海が実力によって脅かされる可能性があることを白日の下にさらした。こうした主権の侵害は明白な軍事力による侵略という形をとるとは限らない。法的な不備を改め、自衛隊と海上保安庁の円滑な連携を可能にするなど、幅広い性質の事態にシームレスに対応していくための具体的な方策が示される必要がある。
(3)日米同盟が優先的に取り組むべき戦略的課題を明らかに
政権交代を経て、日米同盟を重視する姿勢については主要政党が共有するところとなったが、それが単なるキャッチフレーズにとどまっていては意味がない。重要な事は、アジア太平洋地域における自由で開かれた秩序を急速なパワー・シフトに適合させ、北朝鮮の核開発や体制崩壊のようなリスクに備えるために、日米がいかに協力していくのか、大きな方向性を明確にすることである。その上で、日米防衛協力の指針(ガイドライン)改訂、集団的自衛権、TPPといった具体的な政策についての立場を明らかにする必要がある。
(4)賢明な対中政策論議を行い選挙後の日中関係の布石を打つ
日中両国における政権の更新は両国関係を再調整する好機となりうるが、自己主張を強める中国との間では常に緊張が発生する可能性があり、紛争を一定レベル以下に管理する新しい枠組みの構築が必要である。政権を担う可能性のある各党の指導部は、政権獲得後の対中政策を周到に準備しておかねばならない。選挙期間中も、国民の理解と中国に対するメッセージを明瞭に意識し、いたずらに扇情的でも融和的でもない賢明な議論を行って、政権獲得後の対中政策のその布石としなければならない。
(5)対外政策基盤の包括的な強化策で日本の価値をいかに高めるか
経済力をはじめ日本の国力が世界の中で相対的に低下する中、日本が世界の中で影響力を発揮していくには、様々な手段を包括的に活用していくほかはない。他国との防衛協力を柔軟に行うための政治的・法的制約の見直し、ODAの戦略的活用、パブリック・ディプロマシーの精力的な実践(対外的な発信力の強化や様々な国の有力者とのネットワーキングの拡充、国民レベルの相互理解促進のための人的交流の拡大など)、科学技術の外交への活用、インテリジェンス能力の強化や秘密保護の法制化など、連携相手としての日本の価値を高めるための対外政策基盤の強化策を示す必要がある。
【 提言5 】
政治に信頼を取り戻す努力を示せ
(1)日本の将来に「希望」をもたらす中長期的ビジョンをつくる
野田政権は、国家戦略会議のもとに設置したフロンティア分科会において、2050年を展望する中長期ビジョン「共創の国づくり」を策定し、その内容の一部を日本再生戦略に反映させた。本来こうしたビジョンは政党それぞれが有権者に示し、総選挙においてその支持を得たのちに政策に反映させていくべきものであろう。各政党は政権公約であるマニフェストを示すとともに、その拠って立つ中長期ビジョンを有権者の前に示すべきである。
(2)政党内のガバナンスをいかに強化するか
有権者が民主党政権に期待したのは、政治を安定させ、決めるべきことを決め、なすべきことを着実に実行することであった。しかしながら、民主党もまた自民党同様3年で3回総理を代えることになり、有権者の期待に応えることができなかった。「ねじれ」国会という状況があるものの、政治が前進しない大きな理由は党内の統率がとれていないところにある。これは多かれ少なかれ民主、自民両党ほか新興政党などにも言えることである。この問題をどう捉え、どう解決していくのか、党内のガバナンス機能を高める方法を明示することが求められる。
(3)国民の利益、国益にそった政策論争で戦う
民主党政権末期の政治の姿をみると、国益や国民の利益がないがしろにされ、党利党略、あるいは政治家の個人的利益を巡る闘争に終始したという印象が拭えない。これでは有権者が政治そのものに不信感を抱いても仕方あるまい。来たる総選挙においては、マニフェストなどに基づきながら、どのような政策がいかなる利益を国民や国にもたらすか本格的な政策論争を行ない、国民からの信頼を勝ち取っていかなければならない。
更新:11月22日 00:05