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一票の平等が必要となる理由

2012年10月24日 公開
2023年09月15日 更新

宮下量久(政策シンクタンクPHP総研政治経済研究センター主任研究員)

宮下量久

最高裁が2010年参議院選挙区の定数配分を違憲状態と判断した。判決文には「単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改める」必要があると記されている。最高裁は小手先の定数変更ではなく抜本的な制度改革を国会に求めたと解釈できるだろう。昨年には2009年の総選挙に対しても同様の判決がなされており、衆参両院の選挙が憲法に反する異例の事態となっている。

 議員1人当たり有権者数を選挙区別に見てみると、前回の参院選における最少は鳥取県の約24万人、最多は神奈川県の約123万人であった。鳥取県民の一票は神奈川県民の5.1倍に相当していたことになる。3年前の総選挙については、最少が高知3区の20.7万人、最多が千葉4区で49.6万人であったため、一票の重みは両選挙区で2.4倍異なっていた。このような一票の格差を縮小させるため、定数配分の修正案が両院で検討されている。参議院は神奈川、大阪で2議席ずつ増やす反面、福島、岐阜で2議席ずつ減らす「4増4減」案を検討。衆議院は山梨、福井、徳島、高知、佐賀で1議席ずつ減らす「0増5減」案を議論していた。両案とも地方の定員を減らすことで格差縮小を実現しようとしている。

 ただ、これらの修正案が実行されても一票の格差について大幅な是正を期待することはできない。例えば、参議院の格差は4.7倍へ縮小するが、違憲状態とみなされる5倍をかろうじて下回るだけなのである。これまでも、最高裁から格差是正を求める判決が出されるたびに、国会は必要最小限の制度変更に終始していた。結局、国会議員は自分や同僚のポストを守ろうとして、本格的な選挙制度改革に二の足を踏んでしまっているのが実情といえる。民主党は前回の総選挙マニフェストで「衆議院の比例定数を80 削減する。参議院については選挙制度の抜本的改革の中で、衆議院に準じて削減する」と掲げていたが、この国民との約束を守れないのは明らかである。

 確かに、一票の価値を完全に等しくすることは、現実的には極めて難しいと思われる。しかし、国民の意向を国政へ公平かつ公正に反映させるために、格差縮小に向けた取り組みは今後も継続されていくべきである。最高裁は一票の格差を参議院で5倍未満、衆議院で2倍未満ならば合憲とみなす傾向にあるが、これらの倍率に明確な根拠を持っているわけではない。1人1票という民主主義の原則が歪められていることにかわりはないのである。有権者の価値が選挙区で異なることは、憲法第14条「法の下の平等」に反することを国民が再認識しなければならない。

 さらに、一票の重みに違いがあることで、地方の要望が国政で反映されやすく、公共事業などが偏って行われてきたといわれる。その一方で、都市部の有権者は相対的に価値の小さい一票を投じても選挙結果に影響を与えられないと考えて、棄権する確率が高いといわれる。実際、前回の参院選投票率を見てみると、一票の価値が最大である鳥取は65.8%、最小の神奈川は55.6%であり、約10%ポイントもの違いがあった。一票の格差縮小が先送りされるほど、都市住民の声がさらに国会へ届きにくくなると懸念される。今後、国が医療などの社会保障サービスを同時に全国各地で公平に提供していくためにも、一票の格差は是正されなくてはならないのである。

研究員プロフィール:宮下量久☆外部リンク

 

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