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義務教育が変わるかもしれない

2012年10月10日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研教育マネジメント研究センター長)

 新たに就任した田中眞紀子文部科学大臣は、官邸での記者会見でいじめ問題への対応についてたずねられた際、「日本の教育で欠如しているというか求められるのは、人はそれぞれ違うということ」であり、「違うことを認める」教育が必要と述べた。
 子どもたちの違いを認めるべきという考えには多くの人が賛同するのではないか。にもかかわらず画一的な教育制度が変わらないところに問題がある。
 
 変えるべき教育制度のひとつに「就学義務制度」がある。現行の義務教育制度の下では、子どもを学校に通わせる「就学義務」が保護者に課せられている。子どもたちの状況や学習ニーズはそれぞれ違いがあるにもかかわらず、学校以外の多様な場で学ぶという選択肢は認められていない。
 だが、実際には、不登校で学校に通わない、通えない子どもたちがいる。小中学校ではなく、インターナショナルスクールなどに通っている子どもたちもいる。制度の建前と実態との間にずれが生じているのが現状だ。
 
 このようなずれを解消するため画一的な就学義務を見直し、実態に応じて学びの場を選択できる仕組みを導入しようという動きが民間レベルで広まっている。フリースクール関係者や大学教授などが中心になって構成する「多様な学び保障法を実現する会」の活動だ。今月8日に同会の第2回総会が早稲田大学で開催され、関係者約120名、国会議員4名が参加して制度見直しに向けた意見交換を行った。
 
 「多様な学び保障法」とは、就学義務を見直すための新しい法律案の仮称である。いまは民間レベルで法律の骨子案を検討している段階であり、来年以降、議員立法による法案提出を関係者は目指している。
 具体的には、保護者が自治体に届け出ることにより、子どもの状況に応じてフリースクールやインターナショナルスクール、家庭といった学校以外の学びの場で学習することを認めようという仕組みだ。子どもの学ぶ権利を保障するため、保護者への経済的支援も骨子案には盛り込まれている。
 「実現する会」の総会では、参加者から、子どもの学習状況のチェックはどうするのかといった質問や、いじめにあった子どもがゆっくり休むことも認めるべきなどの意見が出され、活発な議論が展開された。骨子案の内容については今回の議論を踏まえてさらに検討が行われる見込みだ。
 
 そもそも憲法は「すべて国民は、(略)その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」と定めており、学校に通うことまで憲法で定めているわけではない。教育基本法も「国民は、その保護する子に、(略)普通教育を受けさせる義務を負う」と定めているだけである。就学義務を定めているのは学校教育法(第16条)だ。したがって、学校教育法に並ぶ新法を制定すれば、学校以外の場で子どもを学習させることをもって「普通教育を受けさせる義務」を履行することも可能になるはずだ。
 諸外国でも、米国、英国、フランスなどでは家庭で学習するホームスクーリングを認めている。わが国でも、戦前は学校に通わないことを認める制度が存在した。
 
 学校以外で学んでいる子どもたちがいるという実態がすでにある以上、多様な学びを制度化し、子どもや保護者に対する支援の仕組みをつくるべきだ。就学義務の見直しが「違いを認める」教育の実施につながるだろう。
 ただし、民間レベルの骨子案にも、学習の質をどう確保するかなどいくつかの検討課題が残っている。子どもたちにとってよりよい教育環境を実現すべく、今後、関係者だけでなく幅広い層の人々を巻き込んだ議論が必要だ。

  <研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク

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