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スターバックスコーヒーが市立図書館に進出

2012年09月26日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

 6月11日付の本コラム「TSUTAYAが公立図書館を運営へ」でも触れた佐賀県武雄市の新図書館構想。同館は、レンタルビデオ店TSUTAYAを経営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営することで一躍話題になったが、この運営にスターバックスコーヒー(スタバ)も加わることになった。現在、スタバは、名古屋大と筑波大の図書館には出店しているが、自治体図書館への出店は初となる。新図書館構想を巡っては、6月市議会でCCCを図書館運営の指定管理者に委託する条例改正がなされ、来年4月から年中無休化などのサービス向上が実現する見通しだった。今回のスタバ出店により、単なる図書館とカフェの併設に留まらない、従来のイメージとは全く違う市立図書館が現われそうだ。

 今回の動きは、樋渡啓祐武雄市長が5月に発表した新図書館のコンセプト「市民価値の追求」の1つである「カフェ・ダイニングの導入」の具体化と考えられる。CCCとスタバ両社は、TSUTAYAで書籍売り場とカフェが一体化した店舗を全国展開しているが、市立図書館初となるスタバでは、このコンセプトを発展させる方針だという。スタバによると、新図書館内の一角に100席以上を設け、そこで既存店と同じコーヒーや軽食を味わいながら、所蔵本や購入前図書を楽しめるスタイルを提案するという。

 それにしてもなぜ、スタバは、人口5万人の武雄市を新たな進出先に選んだのであろうか。そこには、したたかな市場戦略がありそうだ。1つは、スタバの立地戦略は、必ずしも自治体の人口規模に依拠していないということだ。採算が合う一定の集客力のある施設でありさえすれば、商圏人口の大きさに依らずとも、局所的な進出を決断するということである。2つは、企業の事業戦略上、公共施設が有望な進出先に上がっているということだ。売上高は超優良店に及ばなくとも、安定した集客力を持つ点で、優良店並みの売上高があると見込んでいるのだろう。一度、出店場所を確保できれば、固定客を安定的に取り込める可能性が高いからである。武雄市の場合、現図書館の年間貸出者数は約25万人だが、非貸出者数を合わせた総来館者数はこれを大きく上回るだろう。スタバは当然、その集客力に注目しているはずである。

 これに対して、自治体側からすると、従来の武雄市図書館では、20~30歳代の利用者が少なかったというから、新図書館へのスタバ出店で、これまで縁遠かった世代の図書館利用者数を掘り起こせれば、図書館の民間委託の成功例の1つになるだろう。それに触発されて、図書館を民間企業に運営委託する自治体が一気に増えるかもしれない。自治体、企業双方にとって経営的メリットのある関係を構築できるかが、公共施設の新たな運営が成功するためのカギになりそうだ。

 

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