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市町村が問い直すべき総合計画の意義

2012年09月10日 公開
2023年09月15日 更新

荒田英知(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター長)

 政府の地域主権改革の一環として、地方自治体の自立性を高めるために「国による義務付け、枠付け」の見直しが行なわれている。昨年8月には「市町村は、議会の議決をへてその地域における総合的かつ計画的な行政の運営を図るための基本構想を定めなければならない」とした地方自治法の条項が削除された。この改正は、一連の見直しのなかでも、今後の市町村の自治に本質的な影響を与えるものと筆者は考える。

 基本構想は、市町村にとっての最上位計画とされる。10~20年スパンで取り組む政策を描いた基本構想とともに、5~10年の施策レベルの基本計画、3~5年の事業レベルの実施計画の3点セットが「総合計画」と呼ばれてきた。ところが、多くの自治体にとって、総合計画は策定する際には一大イベントとなるものの、出来上がってしまえばお飾りに等しいのが実態であった。

 なかには、北九州市のように、1988年から足かけ18年がかりで「ルネッサンス構想」に取り組み、実施計画レベルでPDCAサイクルを形成して、構造不況の街を環境未来都市に生まれ変わらせた事例もある。しかし、このように総合計画を着実に推進するまちづくりは、これまでは例外的だったといわざるを得ない。

 その状況に風穴を開けたのが、ローカル・マニフェストである。首長候補がマニフェストを掲げて当選すれば、その政策は有権者の信任を得たことになる。ところが一方で、市町村には議会が議決した総合計画がある。1つの市町村が2つの政策体系を持つという事態が生じたのである。皮肉なことに、総合計画やマニフェストに真剣に取り組んだ市町村ほど、この問題は顕在化した。

 そこで、マニフェストと総合計画をすり合わせる作業が必要になった。岐阜県多治見市が、市長のマニフェストをもとに総合計画を見直し、基本構想を8年、基本計画を前後期各4年とする計画体系に変更したのがその先駆けである。これには政治サイクルと行政サイクルを一致させようとの問題意識がある。加えて、計画期間を短期化することで、環境変化への対応力を高めようとするものだ。実施計画についても、浜松市などでは1年単位で策定して年度予算と連動させるようになっている。

 これからの総合計画では、基本構想は企業でいえば経営理念のような大きな方向性を指し示すことが主眼となろう。その上で、基本計画と実施計画をいかに具体的・機動的に運用するかが経営体としての市町村に問われてくる。

 そうした局面で、冒頭述べた策定の義務付けが廃止されたのである。廃止後の市町村の選択肢は3つある。「総合計画は策定せず個別計画で対応する」、「行政の任意計画として策定する」、「条例で議会の議決事項に定めて策定する」である。行政の実務家からは、前2者が合理的であるとの声も聞かれる。先行き不透明な時代にもはや総合計画は不要との意見もある。しかし、これからの市町村を地域主権時代の経営体と見るなら、経営方針としての総合計画の策定は必然であり、住民代表たる議会の関与も当然のことである。

 ところが、改正から1年が過ぎた現在まで、条例化の動きはさほど盛り上がっていない。既定の総合計画が改訂時期を迎えないことには、議論が始まらないからだ。しかし、基本構想や基本計画を自ら議決事項と定める場合には、策定過程での議会の関わり方も問われてくる。したがって、この課題に正面から向き合えば、その市町村における住民・行政・議会それぞれの役割をデザインし直すことにつながる。

 地方自治体が地域主権時代にふさわしい地方政府に変容するために、国の義務付けから解き放たれた後に、自らの意志で総合計画を策定することの意義は限りなく大きいと考えられる。

 研究員プロフィール:荒田英知☆外部リンク

 

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