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“素直で真面目”なのに意志を感じない...なぜ現在の若者は目立ちたくないのか

2023年02月16日 公開
2024年12月16日 更新

金間大介(金沢大学融合研究域融合科学系教授)

金間大介

昨今の若者は素直で真面目だが、自分の意見を言わず、質問をすることも少ない。金沢大学融合研究域融合科学系教授である金間大介氏は、これを若者の「いい子症候群」だと指摘する。なぜ現在の若者は消極的で、目立つことを避けるのか。著書『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』でも話題となった金間氏に詳しく分析していただいた。

※本稿は『Voice』2023年3月号より抜粋・編集のうえ一部加筆したものです。

 

本当に「今年の新人は優秀」?

僕は、とにかく正解を求め、答えを見つけるまで自分の意志や考えを決して表明しないような若者を「いい子症候群」という言葉でくくり、2022年3月に『先生、どうか皆の前でほめないで下さい~いい子症候群の若者たち~』(東洋経済新報社)という本のなかで、さまざまなエピソードやデータをもとに解説している。

要約すると、現在のいい子症候群の若者たちの特徴は次のとおりだ。

「いい子症候群の若者たち」の行動特性(その1)

・素直で真面目
・受け答えがしっかりしている
・一見さわやかで若者らしさがある
・協調性がある
・人の話をよく聞く
・言われた仕事をきっちりこなす
・飲み会に参加する

こういった行動特性から、世間ではよく、最近の若者のことを「素直でいい子」「真面目でいい子」と評する。そのような姿勢から「今年の新入社員は優秀だ」と春から夏にかけて噂されることも、もはや毎年の恒例行事のようだ。ただし、彼らは同時に次のような行動特性も併せもつ。

「いい子症候群の若者たち」の行動特性(その2)

・自分の意見は言わない、質問もしない
・絶対「先頭」には立たず、必ず誰かのあとに続こうとする
・学校や職場では横並びが基本
・授業や会議では後方で気配を消し、集団と化す
・場を乱さないために演技する
・悪い報告はギリギリまでしない

こういったきわめて消極的な姿勢を伴うことから、「素直で真面目」「しっかりと受け答えする」にもかかわらず、「何を考えているのかわからない」「自らの意志を感じない」といった不可解な印象を与える。

この点が「いい子症候群」の大きな特徴なので、あらためて強調しておきたい。昔から消極的で主体性のない若者というのは存在した。それと「いい子症候群」とは何が違うのか。

 それはキャラのわかりやすさだ。かつての消極的な若者は「行動特性(その1)」のような振る舞いはあまりしなかった。一見しておとなしく、コミュ力が乏しいだろうことがすぐにわかった。

 しかしいまの「いい子症候群」は違う。一見、若者らしい前向きさがある。協調性があり、(表面的な)意欲も見せる。年配者はこれに騙される。そしてこう言う。「今年の新人は優秀だ」。

 

承認欲求は強いが目立ちたくない

それではなぜ、彼らはそんなわかりにくい行動をとるのか。その内面にはどんな心理が隠されているのか。それを端的に表すと次のようになる。

「いい子症候群の若者たち」の心理特性

・目立ちたくない、一〇〇人のうちの一人でいたい
・変なこと言って浮いたらどうしようといつも考える
・人前でほめられることが「圧」
・横並びでいたい、差をつけないでほしい
・自分で決めたくない(皆で決めたい)
・自分に対する人の気持ちや感情が怖い
・自分の能力に自信がない

たとえば、大学の講義で「何か質問はありますか?」と問いかけても、いまの大学生からまず返答はない。自分だけが反応すると目立ってしまうからだ。一般的に適切な質問をすることは「意欲の表れ」と評価される。しかし、彼らのなかでは「集団のなかで目立たないこと」が何よりも優先される。

もしあなたが講義中に、一人の学生をほめようものなら、あとで「皆の前でほめないでください」と言われることすらある。彼らは基本的に自己肯定感が低く、自分に自信がないため、ほめられることには「圧」を感じる。

集団のなかでほめられると、自分に対する他者からの評価が上がり、期待されたり何かを任されたりするのではないかと思ってしまう。自己肯定感が低い若者にとって、これは恐怖でしかない。

「いい質問だね」とほめてもらうことは、承認欲求が満たされる。基本的に、いまの若者の承認欲求は強い。だがしかし、承認欲求が満たされること以上に、目立ち、浮いてしまうことへの恐怖のほうが強いのだ。

承認欲求は強いのに、満たすことができない。このねじれた感情が、ますます彼らの心理をこじらせる。

また、いい子症候群の若者たちには、自分で何かを決めるのが苦手という特徴もある。そのため、「誰かに決めてもらう」「前例にならう」「みんなで決める」という方法をとろうとし、自らの責任を回避しようとする。こうした傾向からも、自己肯定感の低さが見てとれる。

「そんなの、若者だけじゃなくてみんな同じじゃないか」と思う人もいるだろう。そのとおりだ。ここまで、いまの若者の多くは、目立つことで噂の対象となったりすることを避ける、と書いてきたが、やはりこれも若者だけではなく、いまの日本人、あるいは日本社会そのものだろう、と感じる人も多いだろう。

つまり、いい子症候群が増える背景には、何のことはない、いまの先輩社会のコピー、あるいはそれがより顕在化された姿があるのかもしれない。

 

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