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PPSからの電力購入と自治体のコストマネジメント

2012年03月07日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

 公共施設で使う電力をPPS(特定規模電気事業者)から購入しようとする自治体が相次いでいる。PPSは、自前の発電設備などで作った電力を各地の電力会社の送電線を借りて販売している。数次の電気事業法の規制緩和を経て現在、50キロワット以上の大口電気利用者(自治体を含む)はPPSから電力を購入できるが、そこに東京電力が今年4月から事業所向けの電気料金の値上げ方針を発表した影響も加わって、電力競争入札への注目度が一気に高まった。ただ、市場環境の変化で電力コストの削減効果を得られるかどうか不透明さを増している。

 2月末、世田谷区は、区庁舎、区民センター、小中学校など111の公共施設の電力購入に関する競争入札を実施し、あるPPSが7億600万円で落札した。現在の対象施設の年間電気料金は6億7000万円。これに対し、17%の値上げ方針を示している東電から購入した場合、同料金は7億5000万円に膨らんでしまうという。値上げ前後の差額である4400万円をPPS導入によるコスト削減効果だと、区は説明している。

 PPS導入の動きは、練馬区、武蔵村山市、千葉市など大都市圏の自治体を中心に急速に広がっている。また、用途別の導入例では、当初、下水処理施設など電気料金の大きな施設に限定されていたが、徐々に庁舎、小中学校など住民の利用頻度が高い施設へも対象が広がってきている。その背景には、電力競争入札を導入する公共施設を増やせば増やすほどコスト削減効果が大きくなるし、複数の業者が入れば全体で電力の安定供給にもつながる、という自治体側の期待があったからである。

 しかし、ここに来て、電力競争入札の実態は、その期待と相反する状況に陥りつつある。その大きな理由の1つは、日本全体の販売電力量のなかで、PPSによる電力供給量が約4%と非常に小さいことだ。供給量に限度があるなか需要が急拡大すると、落札価格の高止まりなど一気に売り手優位になってしまう。先述の世田谷区の場合、1月23日に区長が「競争入札の実施方針」を表明した時点では、1億円を超えるコスト削減効果が見込まれたが、このひと月足らずの間に効果が半減してしまった格好だ。

 当面、売り手優位の状況が続くならば、自治体は電力を調達しづらくなり、入札が成立した場合でも電力を高値掴みしてしまうリスクがある。自治体がこうしたリスクへの対応能力を高めること、すなわち、公共施設にかかる全体コストの情報を把握・分析し、問題点に対するコストマネジメント戦略を予め練っておくこと、そして、市場環境の変化に応じた対策を迅速に打てる体制を整えておくことが課題だ。

 その戦略立案にあたって大切なことは、1つに、多量の電気を消費する公共施設であっても、全体のなかで光熱水費(電気料金を含む)が占める割合は10%程度であることが、『公共施設白書』で明らかになってきている。仮に、PPSで電気料金を20%削減できたとしても、施設の全体コストからすれば微小だ。個々のコスト削減努力が大切であることは言うまでもないが、改善すべきコスト費目は、むしろ他にあると考えるべきだ。2つに、世田谷区がPPSを導入した111施設は、全720施設の15%に過ぎない。施設保有量の観点からもコスト削減の余地が大きいことを忘れてはならない。

(2012年3月7日掲載。*無断転載禁止)

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