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経営の失策を「人件費」に転嫁する企業が成長できない理由

2022年03月16日 公開

山田久(日本総合研究所副理事長)

山田久

近年の歴代内閣がそ実現を目標としてきたもののが、実現されているとは言い難い「企業による賃上げ」。声高に訴えかける政府に対して、民間企業の反応は冷ややかなものだった。なぜ賃上げが実現されないのか? そもそもなぜ賃上げが必要なのか?

※本稿は『Voice』2022年3月号より抜粋・編集したものです。

 

なぜ賃上げが必要か

賃上げに大きな焦点が当たっている。「新しい資本主義」をスローガンに、「成長と分配の好循環」を経済政策のキーコンセプトに掲げる岸田政権は、持続的な賃上げを最重点政策として位置付ける。しかし、賃上げは第二次安倍晋三政権以来の宿願であり、長年の取り組みにもかかわらず十分な成果は上がってこなかった。

しかも、コロナ禍が長引き、経済の先行きにおいて不透明感が強いなか、企業がどこまで賃上げに前向きになれるかには疑問を呈する向きも多い。例年のように2022年1月25日からは春季労使交渉が進むなか、なぜいま賃上げがあらためて注視されているのか、そしてそれはどうすれば実現できるのかを論じていきたい。

いまなぜ賃上げなのか。じつは「企業の持続的な成長」のためにこそ、という点が重要になってくる。

企業の成長には人件費抑制が必要だと考えている経営者は少なくないが、その発想は事業構造の転換を遅らせる。たしかに売上が落ちてもコストを下げれば企業経営は成り立つが、その売上減少は自社の事業構造が社会の変化からズレたことを反映したケースが多い。

根本的原因に目を向けず人件費カットを行なえば、結果的に事業の縮小均衡の罠に陥る。一方で、賃金を上げるということは、それ相当の給与を支払えるように事業構造の変革に取り組むという覚悟を経営に迫り、従業員にもそのモチベーションを与える。

とりわけ、コロナ禍を経てエネルギー・一次産品価格の上昇傾向が鮮明になっており、円安傾向も手伝って、原材料等企業への投入コストは急激に上昇している。

人口減少により数量ベースでの国内市場の拡大が期待薄ななか、バリューチェーンの最終販売段階での消費者向け価格が上昇しなければ、企業部門全体の利ザヤは縮小し、産業全体として将来成長するための投資ができなくなっていく。

これを避けるには消費者向け価格の引き上げが不可欠で、それを可能にするには賃金が持続的に上昇し、消費者が少し高いものでも買おう、という気持ちになることが必要である。

国家財政の持続性のためにも賃上げが必要である点も付言しておきたい。少子高齢化がますます進むことを考慮すれば社会保障費の増加は避けられず、その財源である税収や社会保険料の大半のベースになるのは雇用者所得であるからだ。

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