2021年08月10日 公開
新型コロナ禍により、日本が長年にわたり着手できなかったデジタル化の遅れが露呈している。そんな状況を打開すべく、東京都では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を梃子に都の行政システムを変革する「シン・トセイ 都政の構造改革QOSアップグレード戦略」(以下「シン・トセイ」)が打ち出されている。
旗振り役を務めるのは宮坂学副知事。ヤフー株式会社の社長や会長を歴任した経験から、内外よりその手腕に期待する声が寄せられている。次なる危機が日本を襲ったとき、デジタルはいかなる役割を果たすのか、「シン・トセイ」でめざす社会とは――。「東京都を起点に日本を牽引する」という宮坂副知事の取り組みと覚悟について聞いた。【聞き手:Voice編集部(中西史也)】
※本稿は『Voice』2021年8⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。
――このたびのコロナ禍に限らず、将来的に新たな感染症や災害といった「有事」は再び訪れるでしょう。来るべき危機に対して、デジタルはいかなる役割を果たしうるでしょうか。
【宮坂】パンデミックや災害のような何十年に一度の危機対応は、利益を追求する民間企業にはどうしても難しい側面があります。そこで我々行政の出番がくるわけです。
まず大前提として、行政データを紙よりもデジタルで保管したほうが、災害時の破損・消失は少ないでしょう。オンライン上にバックアップとして保存しておけば、いざというときのリスク分散も可能です。
また、仮に東京が大地震に見舞われたとしましょう。災害時でも、各種の支援制度を被災された方に届けるために行政手続きが必要な局面はあるでしょうが、建物が崩れて交通機能が麻痺していれば、役所に足を運ぶのも難しい。そんな不測の事態が訪れたとしても、デジタルによる手続きであれば、人びとの負担は相当軽減されるはずです。
さらにいえば、いま中国の一部地域では、役所の総合窓口一カ所で行政手続きが完結する「ワンストップ」を超えて、「ゼロストップ」を実践していると聞きます。
専用のプラットフォームに登録すれば、災害時に限らず必要な情報が行政側から利用者に届き、証明書関係の手続きでも行政窓口に赴く必要がないというのです。これは「シン・トセイ」を掲げる東京都にとってもじつに参考になる事例です。
――とはいえ、中国のような権威主義的な政治体制に基づくデジタル化に対しては、憂慮する人も少なくないでしょう。
【宮坂】もちろん日本と中国では政治体制も価値観も異なりますから、各々の国に合ったかたちで施策を実施すればよいと思います。
興味深いことに、電通イージス・ネットワーク社とオックスフォードエコノミクスが発表したレポート「デジタル・ソサエティ・インデックス 2018」によれば、デジタルテクノロジーが社会課題を解決できると信じる人の比率は中国が71%で、調査対象国のなかでトップでした。
日本人からすると「中国のような監視社会になりたくない」と思うかもしれませんが、当の中国の人びとは、デジタルテクノロジーの利便性や恩恵を痛感しているのでしょう。
日本はただ中国の真似をするのではなく、学ぶべき点は学んだうえで、あくまでも日本なりの手法でデジタル化を推進するべきだと考えています。
更新:11月21日 00:05