2021年05月28日 公開
今年3月、東京都が時短要請をするなかで厚生労働省職員23人で深夜まで行われた会食問題は大きな批判を浴びた。
元厚生労働省官僚である千正康裕氏は、こうした不祥事は厚労省に染み付いた"内向き思考"によるものだと語る。その他数々の問題にもこの傾向は共通してるというが、官僚が内向きになってしまう本当の理由はどこにあるのだろうか。
※本稿は『Voice』2021年6⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。
厚生労働省の職員は能力や士気は高いが、外との交流が乏しく、その熱意や発想が内向きになりやすい傾向にあると思う。そして、多数の人事グループに分かれており、組織のガバナンスは利きにくい。
今年3月24日、東京都が飲食店に対して営業時間を午後9時までに短縮するよう要請するなかで、厚生労働省老健局老人保健課が送別会を開き、職員23人が深夜まで会食していた問題で、僕は何度もメディアからコメントを求められた。
「こんなもの『けしからん』という以外に何のコメントをすればいいんだろう」と思ったが、メディアの人たちの疑問は「なぜ、こんなことをしてしまったのだろう、どうして課の職員も誰も止めなかったんだろう」という背景を知りたいということだ。
そうした疑問に答えようと、いろいろと考えていて行き着いたのが、内向き思考の問題だ。
送別会の問題は、外部(国民)との関係でいえばとんでもないことであるが、それをいったん横に置いて考えてみよう。
介護報酬の改訂という大きな仕事をチームとして毎日夜中まで頑張って成し遂げた職員たちは、同志とか家族のような関係になる。そして、4月の人事異動でその家族のようなチームが解散するわけだ。
課長としては、頑張った職員たちを慰労したい気持ちがあったというし、課の職員にも、打ち上げをしたい、このチームの最後だから送別会をしたいという気持ちがあっただろう。
なかには、「よくないのではないか」と思った職員もいたようだが、誰も止めなかったのは、上司の課長に反対しにくい側面があったのではないかという指摘もある。
ただ、それよりもチームの和を乱したくないという気持ちが強かったのだろうと僕は思う。これは、部署のなかだけを見ると、よい課長とチームワークのよい職員たちに見える。
しかし、彼らのなかには、外との関係でどうすべきか、という発想が完全に欠落していたとしか思えない。厚労省の職員がこういうことをすると世の中からどう受け止められるか、それを想像したら大人数で送別会をやるなどという愚かしい判断はしない。まさに、内向き思考の問題だ。
不祥事の頻発にいちばん怒っているのは、霞が関の官僚たちであり、とりわけ同じ厚労省の職員たちだ。多くの職員が必死に頑張っているなかで、何をやっているんだという思いだ。
とくに、送別会については深刻に受け止められている。新型コロナウイルス接触確認アプリ・COCOAの不具合や法案のミスなど、仕事上のミスは、さまざまな要因が背景にあるが、送別会は仕事ではないし、わざわざやる必要のないことだから同情の余地がない。
僕が厚労省を辞めた2019年9月末時点でも、「このままだと、健康や家庭を壊し、離職する職員が増え、厚労省も霞が関も崩壊してしまうのではないか」という危機感があって、霞が関の働き方改革を訴えてきた。
そこに未曾有の感染症が起こったのだ。厚労省本省には約4000人の職員がいるが、突然、500人規模のコロナ対策本部が出来上がり、あらゆる部署が応援を出したり、本来の所属部署の仕事をしながらコロナ対応もしていたりする。
過酷な労働環境のなかで、体を壊す職員や離職する職員も後を絶たない。しかも、エース級の仕事のできる職員たちが次々と離脱している。完全に組織が限界を超えているのだ。
そうした状況のなかで、頻発する不祥事の対応も重なり続けている。働き方改革も進めないといけないし、組織のガバナンス強化も必須だが、いまある業務を回すだけでなく、そのような組織改革を進める余力が厚労省に残っているのか、とても心配になる。
更新:11月22日 00:05