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俳優・吉田鋼太郎「表現者が世間の声に怯えている状況は“異常”」

2021年01月07日 公開
2021年07月29日 更新

吉田鋼太郎(俳優)

吉田鋼太郎氏
(カメラマン: 渡部孝弘/ヘアメイク: 小菅孝/スタイリスト: 岡村春輝)

俳優の吉田鋼太郎氏と柿澤勇人氏が挑む『スルース~探偵~』が、2021年1月8日(金)より新国立劇場・小劇場で上演されている(~ 24日〈日〉)。

本作は、イギリスの劇作家アントニー・シェーファーの〝最高傑作ミステリー〟との呼び声が高く、世界中で幾度となく上演され、二度にわたり映画化もされた。

不倫をめぐり、二人の男が密室で繰り広げる復讐劇をどう演じるのか。主演の一人である吉田氏に、本作の見どころから新型コロナ禍における舞台の在り方、俳優としての覚悟を聞いた。

※本稿は『Voice』2021年2⽉号(1月10日発売)より⼀部抜粋・編集したものです。

 

コロナでも芝居という文化はなくならない

――新型コロナの影響で、吉田さんは一年ぶりに舞台に立たれます。心境はいかがでしょうか。

【吉田】感染者数が増加し始めた2020年3月から6月に入るまでは、芝居をしたくてもまったくできない状況が続きました。なかでも、6月上旬から『ジョン王』という僕が演出も手掛ける舞台が控えていて、一縷の望みをかけていたのですが、それも中止になってしまった。

ただ、俳優人生において3カ月もの休みをとった経験がなかったので、最初は「リラックスができるチャンスかもしれない」と思っていました(笑)。

しかし、休みに入って一カ月も経つと、「ああ、芝居がしたいな」と思い始めた。そんな自分を見て、やはり舞台が好きなんだと痛感しましたね。

――コロナ禍で演劇界が深刻な状況に置かれるなか、吉田さんは現状をどう考えていますか。

【吉田】もともと、日本の演劇は河原から始まっていますし、紀元前6世紀のギリシャ悲劇だって丘の斜面につくられた野外劇場で上演されています。その原点に立ち返れば、コロナでも芝居ができないことはない。

業界関係者の多くが「劇場が使えないから芝居ができない」と嘆き、「演劇の危機」を訴える声もあがりました。たしかにコロナは危機ではありましたが、“本当に芝居がやりたい”という衝動があれば、劇場と関わらないかたち

でも芝居はできます。演じるだけなら、広い道端や公園でパフォーマンスしたっていいわけです。

――ただ現実問題として、劇場を使用しないと多くの人に芝居を届けられないのではないでしょうか。

【吉田】もちろん、興行としての舞台は「芝居を観たい」といってくださるお客様がいてこそ成り立ちます。しかし第一に、「芝居をしたい」と思う役者の存在があります。そうした熱意を抱える役者がいるかぎり、芝居という文化はなくなりません。

極端にいえば、芝居は一人でやってもいいんです。孤独でもどこかに向かって喋ること自体が、役者の「演じたい欲」を満たします。少なくとも僕は、役者は自分が生きている実感を得るために演じているのだと思っています。

――そんな吉田さんが俳優を始めてから今まで、変わらない軸はありますか。

【吉田】あります、と答えたいのですが(笑)、やはり名が売れていくにしたがって、あらゆる“枷”を負うようになってしまいました。たとえば俳優は企業のCMに出演したり、プロデューサーや所属会社と一緒に歩んでいきますよね。

有り難いことですが、自分が自由に動ける範囲が制限される面も否めません。そうやって僕も、社会に求められるように自分をつくっていくようになった節はあると思います。

――いまの世の中に窮屈さを感じるときがあるのですね。

【吉田】表現者の全員が感じているでしょう。これまで僕たちをジャッジしていたのは、お金を払って舞台を観に来てくださるお客様でした。でも、いまやインターネットの世界で、普段は我々に興味がない人も含めてあらゆる目に晒れています。

しかも、批判する人たちの顔はこちらからは見えません。すると俳優をはじめとした表現者は、批判されないように振る舞わなければならず、どんどん生きづらくなっていく。

その結果、心を病んでしまう表現者が増えてしまっている気がします。多くの人が世間の声に必要以上に怯えているいまの社会は、異常だとすら思います。

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