2020年12月25日 公開
2021年08月06日 更新
――吉田さんとワイクが似ている部分はありますか。
【吉田】怖い質問ですね(笑)。じつはとても似ていると思っています。それこそ、周囲の人間のことよりも、自分の頭の中の世界を中心に生きてしまうところとか。
俳優をしてると、どうしても架空の世界と付き合っている時間が長いので、そっちに意識が引きずられがちなんですよね。
――吉田さんは柿澤さんを「狂犬」と表現しています。今回の舞台で再び共演してみていかがでしたか。
【吉田】彼はティンドル役にピッタリだと思いました。色気があるし、長い台詞を覚えて約二時間喋り抜く技量もある。シェイクスピアの『ハムレット』に出演できた役者が「ハムレット役者」と評されるように、『スルース』の芝居も誰にでもできるものではありません。
――舞台演出で意識した点はどこでしょう。
【吉田】二人芝居ということもあり、今回は演出家としての客観的な視点はあまり必要ないと考えています。なにせ、たった二人の俳優しか出てきませんから。
たとえばシェイクスピア作品の舞台で、序盤に二人の人物しか登場しないと、お客様はだんだんと飽き始めていきます。早く新しい登場人物が出てきて、場面が次々と変わることを期待しているためです。
ところが、今回の舞台にはそうした変化がまったくない。ずっと二人、ずっと同じ景色です。だからこそ、最初の5分で飽きられたら終わりです。
要するに、『スルース』でお客様を約二時間ものあいだ飽きさせないためには、演出ではなく俳優の演技にかかっているということです。僕たちは今回その勝負をしにいく。
台詞の一言一言のテンポ、緩急、声の大きさを変える意識はもちろん、つねに客席に気を配り、お客様が飽きていないか確認しながら進める必要がある。二人芝居を初めて経験する僕にとって、これは大きな挑戦でもあります。
――吉田さんは古典作品にも多く出演されています。どういうところが魅力でしょうか。
【吉田】演じる側からすれば、古典作品は、日常では馴染みのない難しい言葉や言い回しを覚えなければなりません。それをやりきって初めて、「自分は俳優という仕事をやってるんだな」と実感できる面がありますね。
たとえば『半沢直樹』シリーズで共演した堺(雅人)君は、専門用語の入った長台詞を完璧に覚えてきて、まったく間違えない。同じように古典作品も、役者としての力量が試されている面があるでしょう。
観る側の目線からいえば、難解な古典作品に興味をもつことへのハードルは高いかもしれません。
僕自身が興味をもち始めたのも、高校時代に英語の先生から「どうせお前は夏休みは勉強もしないだろうし、何もすることないだろ。それなら芝居を一回観ておいたほうがいいぞ」といわれて、シェイクスピア戯曲を渋々観に行ったのがきっかけなので(笑)。
その偶然の機会に僕の心はがっしりと摑まれて、俳優人生を歩むことになってしまったんですけどね。
――何が心に響いたのでしょうか。
【吉田】出演者がすごい方々で、本当にクオリティの高い芝居だったんです。芝居の良し悪しは、演出者や出演者のセンスに大きく依存します。なかには「いまこれを観て、お客さんは喜ぶの?」という作品だってある。
だからこそ、「好きな俳優が出ているから」という理由がまずあって、付随して古典作品に興味をもつ順番でもいいと思います。今回の『スルース』もシンプルな構成ですが、二人の役者が心理戦をやり合うという面白い設定がある。
ただし、名優が演じないと成り立たない。下手っぴがやったら、この芝居はなんでもなくなってしまう。僕は、芝居でその責任をいつも負わされているんです(笑)。
■『スルース〜探偵〜』
作:アントニー・シェーファー 翻訳:常⽥景⼦ 演出:吉⽥鋼太郎
出演:柿澤勇⼈、吉⽥鋼太郎
公演:2021年1⽉8⽇(⾦)〜 東京・新国⽴劇場 ⼩劇場にて
その他、大阪、新潟、仙台、名古屋公演あり
更新:11月25日 00:05