2020年12月28日 公開
2022年07月01日 更新
――新型コロナ対策に関わる情報のオープン化(GPSやデータ活用)に伴い、プライバシーの侵害など人権とのあいだに矛盾は生じないのでしょうか。
【タン】重要なポイントは、政府にプライバシーをとられるかではありません。むしろ発想は逆で、政府に保存している自分の資料をいかに取得しやすくなるかどうかでしょう。
たとえばいま台湾では、携帯電話に健康保険アプリをダウンロードしてアクセスすれば、そこから歯医者や病院の診療履歴、健康検査の結果など、あらゆる情報がダウンロードできます。
閲覧できるのは本人のデータのみで、もちろん他の人の資料を見ることはできません。プライバシー情報は厳格な法規で守られ、第三者が私的に利用できない仕組みになっているからです。
私たちは、マスク在庫がリアルタイムで確認できるアプリ「マスクマップ」を開発・運用しています。そのとき、私たちが「オープンソース」といって公開する情報は統計であり、個人情報とは関係がない。個人が情報の利用者になると同時に作成にも参加できれば、情報との距離が縮まって全体に信頼感が生まれます。
また、薬局やコンビニエンスストアでは実名制で購入する仕組みもつくりましたが、そこでなぜ健康保険証を利用したかといえば、台湾に住む99%の人が所持するカードだから。じつはカードがどれほどの個人情報を収集しているかは関係ないのです。
――蔡英文政権は、発足当初からいまのように官民の距離が近いわけではなかったように思います。2018年11月の統一地方選挙で民進党が大敗してから大きく変わったのではないでしょうか。
【タン】統一地方選以降、中央政府の広報の手法に変化があったことは確かです。以前の政府発表はすべて「四角四面」で堅苦しかった。人びとが積極的に見たいと思う発信ではありませんでした。
誰にも見られないということは、誰にも伝わらないということです。当然、噂やフェイクニュースにつけ入る隙を与えます。硬直した状況をガラリと変えたのが、政府の広報担当になったグラス・ユタカ報道官です。それまでのコミュニケーションを楽しい方式に変革したことで、その後のコロナ対策における柴犬のマスコット起用にも繋がりました。
この「humor over rumor(ユーモアは噂を超える)」という概念は以前からありましたが、グラス報道官が着任して以降、蘇貞昌行政院長(首相に相当)が自ら先頭に立って「お手本」を示すようになったことには大きな意味がありました。
「蘇院長より面白くてクレイジーな発信を!」と、皆で楽しさを競い合う、良い循環が始まったのです。これはコミュニケーション方式の進化といえるでしょう。
――世界ではいまだ新型コロナの感染が収束せず、第2波、第3波が襲っています。この危機に立ち向かう際のアドバイスはありますか。
【タン】まず一つは、基本的な話ですが、石鹸で手を洗うこと。石鹸がなければ、アルコール消毒でも構いません。たとえば腸病毒といったウイルスも、石鹸とアルコールでほぼ完全に取り除くことができます。これほど確実な対策はありません。
次にはマスクです。マスクを着けることで、洗っていない手で自分の口に触れることを防げます。また、マスクの着用は他者への気遣いでもあります。もし人口の4分の3の人びとがマスクをきちんと着け、手洗いをしっかりしていれば、第2波、第3波は起こりません。
このことを知っていた私たちは、2月の時点で全国民がマスクを購入できるようにするという目標を掲げ、3月に人口の4分の3のマスク着用を実現し、4月には新規市中感染ゼロを達成しました。
マスク着用人口を増やし、皆が手洗いをするような情報を伝える。そこでデジタルを活用すれば、じつに有益なことでしょう。
更新:11月24日 00:05