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「地方移住」は理想にすぎない? “東京脱出”が叶わない2つの要因

2020年11月02日 公開
2022年07月04日 更新

曽我謙悟(京都大学大学院法学研究科教授)

曽我謙悟氏

コロナ禍で在宅勤務やリモートワークが推奨され、「東京―地方」の格差は解消されるとの予見もある。しかし、コロナ禍だけでは“一極集中”から脱却できない、国の構造的な課題があった――。

※本稿は『Voice』2020年11⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。

 

組織に縛り付けられる「日本型の雇用」がネックに

第1の問題は、新卒一括採用を中心とし、長期雇用を行なうという日本型雇用慣行が変容しつつも、いまだに根強いことだ。

このため、頻繁に企業を移りながら自分のキャリアを築くことや、自分の技能を活かして異なる職種に就くようなことは少なく、社会全体としての流動性は高まっていない。

メンバーシップ型と呼ばれるように、組織への所属が先にありきで、業務はそのなかで与えられる。退職金の仕組みなども依然として、転職を不利にしている。

固定されたメンバー間での密接な意思疎通や協力関係により業務を遂行しているため、個人で仕事を切り出し、明確な技能形成を行なうことは難しい。今回、新型コロナへの対応として在宅勤務・テレワークが拡大したが、急速に元の勤務体制に戻っているのもこのためだ。

労働政策研究・研修機構による民間雇用者への調査では、緊急事態宣言下において在宅勤務を一日でも行なった者の割合は94.3%にのぼっていたが、七月最終週には48.8%にまで減っている(「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」)。業務の進め方という根本を変えずに、在宅勤務だけを取り入れることはできないのだ。

「職」の流動性の低さは、政府の政策選択の帰結でもある。医療や年金といった社会保障は、所属する組織ごとに編成されており、とくに年金においては、依然として組織間の移動が不利になりやすい。

失業保険は給付額、期間ともに低水準であり、時間をかけて新たな技能を修得したうえで職を移っていくことは困難である。

 

家を購入すると移住へのハードルは高くなってしまう

第2の問題は、日本の居住の特徴が、持ち家を中心とすることだ。この背景には、住居の確保を公営住宅では行なわず、民間市場に委ねるとともに、借家ではなく持ち家が有利になるようなさまざまな支援を行なうという住宅政策があった。

持ち家か借家かは、移動の容易さを左右する。今年3月の内閣府による1都3県居住者への意識調査に基づくと、借家や社宅に住むのは全体の42.3%であり、これらの人々の54.9%が移住に関心、あるいは移住が気にはなっているという。

これに対して持ち家に住む人々(全体の57.7%)だと、同様に答える人の割合は46.1%に下がる(「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査報告書」)。

持ち家の中でも流通の中心となるのは、中古ではなく新築の戸建てないしマンションである(砂原庸介『新築がお好きですか?』ミネルヴァ書房)。日本の住宅政策は、経済政策の一部をなしている。

住宅に関係する産業は裾野が広く、それらの市場を作り出すためにも、人々が新築を志向することが目指される。

とりわけ2000年代以降、都市計画の規制緩和と金融緩和による低利子の住宅ローンの拡大により、大手ディベロッパーが手がける都市部でのタワーマンションと、いわゆるパワービルダーが郊外に建てる小さく安い戸建てが急速に増大した。

新築の住宅が中心となることの裏返しは、中古市場の小ささである。このため、既存の物件に投資を行ない、資産価値を高めることもされない。

とりわけ一戸建ての存続年数は短く、取り壊しと新たな建設が繰り返される。経年に伴う資産価値の下落が大きいため、土地の値段が上がらないかぎり、住み替えは困難である。

このように、「職」と「住」いずれの面でも、移動を難しくする要因が多い。20代まではそうではないとしても、その後は、仕事も住むところも変えないことが、人々にとって合理的な選択となるのである。

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