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「ポスト安倍」の時代、コロナ対策に当たる霞が関の“働き方改革”が必要な理由

2020年09月07日 公開

松井孝治(慶應義塾大学総合政策学部教授)

国会運営、国と地方の役割分担、政府の執行力の弱さ……コロナ禍を契機に、統治機構のさまざまな課題が浮き彫りになった日本。そして現在は「ポスト安倍」の政治へと関心が向けられている。官僚と政治家の双方を経験し、現在は慶應義塾大学総合政策学部で教鞭を執る松井孝治氏は、日々「クレーム」に追われる霞が関の働き方改革を提起する。

※本稿は『Voice』2020年9月号より、一部を抜粋編集したものです。

 

「55年体制」に逆戻り

6月17日、通常国会が閉幕した。新型コロナウイルス対策に関する重要論点が山積しているにもかかわらず。与野党は会期を延長しない代わりに、コロナ関連の委員会の閉会中審査を週一回開くことで合意した。

あたかも「55年体制」に逆戻りしているようだ。成立が見送られた公務員法改正案についても、前検事長の騒動ばかりが注目され、国家公務員の人事評価の在り方や働き方、定員管理などを巡る本質的議論はついに行なわれなかった。

いま国会改革を本気で望んでいるのは、政治家ではなく、日々政治に関わる調整に追われ、政策立案に支障を来している中央官僚ではなかろうか。昭和から平成初期までの官僚主導の時代、最大の弊害は、省庁の行き過ぎた縦割りと、政官業の鉄の三角形の既得権益だった。

各省官僚による積み上げとコンセンサス重視の意思決定システムはまさに鉄の三角形と一体化しており、政治主導と官邸主導の推進は、そこに楔を打ち込むための平成の改革であった。

平成改革のしんがりをつとめた安倍政権だが、たしかに2015年に安保法制を成立させ、外交安全保障や人事面で内閣の統合性を強化した功績は大だ。しかし、その後の安倍政権は、一強の名をほしいままにしつつも、その政治主導・官邸主導が後世に残る大改革を成し遂げたとは言い難い。

しかし内閣の在り方はまだ改革が進展したほうだ。平成の前半に国会改革が着手されたが、その後、改革成果はむしろ退行し、現下の国会では、国の根幹に関わる議論は一向に行なわれない。

官僚たちは、国会がもはや「クレーマー」のような存在になってしまっていると不満を隠さない。本稿では、コロナ禍で明らかになった、内閣、国会、国と地方の関係などを中心に、今日にこそ必要な統治改革の在り方を論じてみたい。

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