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MIT教授・アセモグル氏語る「コロナ禍で露呈したアメリカの失敗」

2020年07月29日 公開
2023年01月11日 更新

ダロン・アセモグル(経済学者)

ダロン・アセモグル

合衆国憲法と人種差別

―─今年5月、米ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が白人警察官に暴行を受けて死亡した事件をきっかけに、全米で抗議デモや暴動が起きました。

なぜ、アメリカではいまでも黒人(アフリカ系アメリカ人)差別が絶えないのでしょうか。本書によれば、その淵源は合衆国憲法に遡るとのことですが、どういうことでしょうか。

【アセモグル】この本には物議を醸すようなことをたくさん書きましたが、合衆国憲法やアメリカ政治システムに対する解釈は、それには当てはまりません。

アメリカが「人種差別国家」として建国されたことは、客観性を重んじるアメリカの多くの歴史家のあいだで、広く受け入れられています。合衆国憲法はある面で称賛に値しますが、人種差別的な憲法であることは間違いありません。

ジェイムズ・マディソンやジョージ・ワシントンや、アレクサンダー・ハミルトンといった連邦国家主義者は、合衆国憲法を成立させるためにいくつかの点で妥協せざるを得ませんでした。それはアフリカ系アメリカ人に対する人種差別を増幅させるようなレガシー(遺産)を残してしまった。

──ワシントンやマディソンも奴隷を所有していましたね。

【アセモグル】その背景にはいくつかの要素がありました。合衆国憲法は、奴隷所有者が政治的に大きな力をもっていた南部の州からの支持を得る必要があった。

もともと連邦システムは非常に制約されたものでした。人種差別政策を推進するローカルの州の法執行機関と地方行政によって、多くのことが処理されるのを許していたのです。

──合衆国憲法と人種差別の関連は、日本ではあまり知られていないと思います。

【アセモグル】南北戦争(1861~65年)前のアメリカには、南部と北部という二つの国がありました。南北戦争後も、表向きはすべての奴隷が解放され、選挙権を得たけれも、しばらくすると南部はジム・クロウ法(1870年代から1960年代までの米南部での人種隔離による規則と条例)の下で、事実上の人種差別システムを維持した。

それ以前とほぼ同じような黒人差別を続けたのです。現下の問題は、人種差別的な地元警察署が何百もあることです。彼らは、自分たちの中から人種差別主義者を取り除くようなことはしません。まず、こうした警察の問題を解決することです。

本書にも書いたように、ファーガソン事件(2014年にミズーリ州ファーガソンで起きた、白人警察官による18歳の黒人マイケル・ブラウンの射殺事件)では、罰金を科して市の財源を増やすという財政上の目的や他の理由で、ファーガソン市警は組織的に黒人を抑圧し、搾取していました。

しかし、ファーガソン事件のあと、最初のブラック・ライヴズ・マター運動(黒人への差別をやめさせるための積極的な行動)が起きたときに、オバマ大統領(当時)は地元警察署を見直すプロセスを開始しています。警察の部署に蔓延している人種差別に対処することで、われわれは大きな勝利を収めることができるでしょう。

―─今回、全米で抗議デモや暴動が広がった背景には、経済格差があるという人もいます。

【アセモグル】その可能性はありますが、確かなことはいえません。この20年の経済面の変化において、最も不満を感じている層の中には、製造業に従事していて給料がよかった人や、中西部の中流階級、南部の一部の人がいるでしょう。

そのような人たちがトランプの強い支持者になったのです。もっとも、彼らは今回の暴動に参加している中核のグループではないと思います。

──コロナの影響についてはっきりしているのは、デジタル産業がさらに発展していくのとは対照的に、飲食業や宿泊業など、国内の多くのサービス産業が苦境に立たされていることです。

【アセモグル】とても難しい問題です。それはどうすることもできない、という言い方もあります。グローバリゼーションとテクノロジーの相乗効果が格差を引き起こすというのであれば、そうした格差と共生するしかない、という考えです。

私は反対ですが、そこで格差を解消するために、ユニバーサル・ベーシックインカム(最低所得補償)の制度を導入するという方法もあります。

いろいろなフォーラムで議論しましたが、テクノロジーがもたらす未来については、誰も想像はできません。テクノロジーによって生まれる労働もあれば、消えていく労働もあります。

──まさにそのバランスを決めるのは、国家だということですね。

【アセモグル】われわれは、より良い福祉国家や労働市場制度をつくるために、もっとやれることがあると思います。テクノロジー面の変化、たとえばAIを人間に対してよりフレンドリーな方向に向けるようにする。

すべての仕事を自動化して労働者から仕事を奪うのではなく、多くの労働者に対して新しい仕事をつくり出せるようにする。これはアメリカだけでなく、他のOECDの加盟国に対してもいえます。

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