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新防衛計画の大綱について

2010年12月29日 公開
2024年12月16日 更新

前田宏子(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

前田宏子

防衛計画の大綱(防衛大綱)とは、今後10年ほどを想定し、日本の防衛力の基本方針を示す文書のことです。また、別表として自衛隊の体制や装備の目標数を示しており、これに基づいて、5年間(今回は2011~15年)の整備計画を定めた中期防衛力整備計画(中期防)も策定されます。防衛大綱が初めて策定されたのは1976年で、今回は95年、04年に続く3度目の改定でした。

 本来であれば、今回の改定は昨年(09年)中に行われるはずでしたが、当時は民主党政権が成立してからあまり時間が経っておらず、さらに鳩山政権が自民党時代とは異なった方針を示すことに執着したため、予定を一年先送りしての策定となったわけです。ただし、実際に出来上がったものは、自民党が政権をとっていたとしても、それほど大きな差はなかったのではないかという内容になっています。後述するように、いくつかの点で方針の変更が見られますが、これらの変更は民主党の独自性や理念を反映したというより、日本を取り巻く国際環境の変化に対応するためといったほうが適切です。

 新大綱の特徴の一つは、冷戦時代に生み出された「基盤的防衛力構想」から脱却し、「動的防衛力」という概念を打ち出したことです。基盤的防衛力とは、小規模な侵略に対処するための必要最小限の防衛力を保持し、「組織および配備において均衡のとれた態勢を保有」するという考え方です。要は、日本が侵略を受けた場合に、同盟国(アメリカ)の支援が来るまで敵勢力を排除することができる最低限の防衛力を維持し、その兵力・装備を日本全土に比較的まんべんなく配備する、というものでした。しかし現在では、安全保障を考える際に他国からの侵略に備えるだけでは不十分となっており、テロやゲリラ活動、核・弾道ミサイル、大規模災害への対応、国際平和協力活動への参加なども考慮しなければなりません。さらには、それらが複数同時に発生する事態も想定しなければならず、そのためには、これまでのような抑止力重視の基盤的防衛力ではなく、情報収集や警戒監視能力を高め、即応性・機動性・柔軟性を強化した「動的防衛力」の構築が必要というわけです。

 動的防衛力という概念が生まれた背景には、多様化する安全保障上の脅威と課題に対応するという理由以外に、実は、財政事情が苦しく防衛予算を増やすことのできない日本が、いかに効率のよい防衛力を構築するかという問題意識も存在しています。新大綱は、日米同盟の深化とともに、韓国やオーストラリア、インドとの防衛協力を強化する方針も打ち出しましたが、これも、多様化しネットワーク化する脅威に対応する能力を向上させるという目的以外に、一国のみでは限界のある防衛力を補強する意図があると考えられます。

 今回の新大綱でもう一つ注目されたのが、南西諸島防衛の強化です。最近では東シナ海や沖縄・宮古島周辺における中国海軍の活動が懸念をもたらすようになっており、9月には尖閣諸島を巡る日中摩擦も生じました。中期防では、陸上自衛隊の隊員や戦車数を削減する一方で、那覇基地の戦闘機部隊や潜水艦を増強するという計画を示しています。また、沖縄・南西諸島に陸上自衛隊100名程度による沿岸監視部隊を新設することも盛り込まれました。100名程度の部隊というのは大した戦力ではありませんが、周辺海域での活動を活発化させている中国に対する牽制となることが期待されています。

 動的防衛力という新たな概念を打ち出した新大綱ですが、「この概念が何を意味しているのかよく分からない」という批判もあります。実際に即応性や柔軟性、機動性を高めるために、陸海空自衛隊の統合運用や部隊再編成、装備品のシフト、予算配分の見直しなどがどれほど進められるのか、新大綱の具体化がどう実施されていくのかが今後は注目されます。

(2010年12月20日掲載。*無断転載禁止)

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