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ブラック企業でも耐えた「氷河期世代」の悲痛な叫び

2019年10月09日 公開
2020年09月05日 更新

平岡陽明(ひらおかようめい:作家)

 

小説だからこそ描き出せた現実

『ロス男』(平岡陽明・講談社刊)

――本書には、自分の生き方を見つめ直すような「自己啓発本」の側面もあると感じました。

【平岡】私はそれでいいと思っています。人間にとって最高のエンターテインメントは、「人生」や「人間とは何か」について考えることではないでしょうか。だから私は、自分のエンターテインメント小説の焦点をそこに合わせたいとつねに思っています。

――ロスジェネについてはすでに多くの論評があります。そのうえで、小説だから描けた側面は何でしょう?

【平岡】10年以上前、赤木智弘さんの「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」(『論座』2007年1月号)という論文が話題になりましたね。

まさにロスジェネ論の象徴だったと思いますが、そのあとは、ロスジェネのたんなる現状リポートだったり、机上の空論だったりが多かった。

それは「もう手遅れで救いようがない」という現実から始めないからです。だから小説のほうが、リアルを伝えるにはいいのかもしれません。

――つまりは、小説でしか描けない現実がある。

【平岡】とはいえ、現代は小説が扱えるテーマは限定されています。ロスジェネにかぎらず、コンプライアンスから引きこもり、吉本興業の問題まで、あらゆる社会問題がネット上で論じられていますから。それですべて事足りているともいえる。

しかし一方で、ネットユーザーの「情報疲れ」も感じます。これだけ玉石混交の情報が流れていれば、取捨選択すら面倒くさい。そんなとき、「あ、小説っていいね」と目を向けてもらうには、繰り返しになりますが、ネットでは味わえない人間論や人生論を展開するしかない。

さらにいえば、文章を極限までシンプルにし、短くする工夫も必要です。スマホ脳になった現代人に小説を最後まで読んでもらうのは、それだけで奇跡ですから。

――小説はやはり文体で読ませるものなのですね。

【平岡】私自身、執筆中はつねに「ここは読む人にとって退屈ではないだろうか」と自問自答しながら書いています。将棋に喩(たと)えるなら、プロ棋士が、素人には無理筋と思える細かい攻めをつなげて勝ち切ってしまうイメージ。

まさに綱渡り感覚の、読者の興味をそらさない推敲が求められていると感じます。

それはとても難しい。だけどみんなやっていることだし、ときに、推敲するために文章を書いているんだ、と感じることもあります。

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2024年12月

Voice 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):880円