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平均年齢60歳、タクシードライバーが抱える“難題”

2019年06月14日 公開
2023年01月31日 更新

伊藤安海(山梨大学大学院総合研究部教授)

伊藤安海

問題の本質は交通事故への取り組み

交通事故や交通事故死者数を減らすためには、道路や信号制御による対策も効果的です。ガードレールで物理的に歩行者を守ることや、最新の信号制御技術を普及させて交差点でのドライバーの判断ミスを減らすことで、着実に交通事故死傷者数を減らすことができます。

ところが日本では、アメリカやドイツ、イギリス等の欧米諸国と比べると、歩行中や自転車乗車中の交通事故による死者数が突出して多い状態が続いています。

これは、わが国の道路が欧米よりも歩行者にとって危険であることを物語っています。

ヨーロッパは馬車文化の時代が長く、時間をかけて「歩道」と「車道」がつくられてきたという歴史的背景があるため、幹線道路での自動車と歩行者の分離や市街地で自動車が速度を出すことができない工夫が十分に施されています。

一方、わが国では車輪文化が短く、歩道だった道路に車が走り出すようになったため、人間が安心して歩くことができない道路ばかりなのです。

併せて、信号機の問題もあります。ガードレールや交差点での車止め(ポール)の強度や安全性は長年研究されており、設置する場所ごとに国土交通省が基準を設けています。

信号機に関しては、交差点でドライバーが判断に迷う場面では黄色信号に変えない「ジレンマ制御信号機」が一部の交差点に導入されており、実際に追突や出合い頭の事故が73%減った(警視庁)というデータも存在します。

問題は、道路や信号機の安全技術の水準ではなく、すでに存在するハイレベルな技術が活かされていない(普及していない)ことなのです。

日本損害保険協会は2018年に都道府県別・危ない交差点ワースト5を発表しています。そういった場所だけでも早急に道路や信号機による交通安全対策を実施することで、確実に交通事故死者数を減らすことができるのではないでしょうか。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて日本は産官学、関係省庁が連携してオールジャパンで自動運転技術を推進しています。

しかし、高速道路等の自動車専用道路以外での完全自動運転実用化の目途はまったく立っていません。

その大きな要因は、日本の道路では歩行者と自動車が混在している個所が多く、安全を確保するためには自動運転中の自動車は速度を出せないことであり、信号機が赤に変わってからしか右折できない交差点のように、道路交通法を厳守すると現実的に自動車交通が成立しない個所が多すぎるからなのです。

自動車、道路、交通警察、関係省庁や各業界が連携して交通安全対策に取り組むことができれば、現在の技術水準で大幅に交通事故死傷者数を減らすことができるでしょう。

高齢ドライバー問題を深く分析することで交通事故問題の本質が見えてきました。そこからわかることは、高齢ドライバーによる悲惨な事故を防ぐ近道は、交通事故問題に正面から取り組むことなのです。

運転する機会の少ない危険な若年ドライバーの割合が近年増加しています。バックモニターやカーナビといった支援システムに支えられて能力低下を起こしている非高齢ドライバーの問題こそが議論されるべきなのではないでしょうか。

しかし、切迫した「高齢ドライバー問題」が存在します。それは平均年齢約60歳のタクシードライバーをはじめとする商用ドライバーの高齢化です。

高齢商用ドライバーが一斉に免許を返納したら、(交通事故は減るかもしれませんが)日本の物流、日本の経済はストップしてしまうのです。この「高齢ドライバー問題」は待ったなしでわれわれの生活に迫っています。

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