2018年06月22日 公開
2023年01月18日 更新
格差というファクターを考える際に、避けて通れないのがアメリカという超大国に起きつつある大きな変化である。2016年の大統領選で大方の予想を覆してドナルド・トランプ氏が大統領になり、依然として支持されている背景には、強力な支持層である「ホワイト・ワーキング・クラス」という階級が存在する──。こう解説するのは、労働問題の専門家・ジョーン・C・ウィリアムズ氏である。アメリカ社会で起きていることは、10年後、20年後に日本でも起きると言われている。自由と民主主義の国・アメリカの未来を考えることで、何が見えてくるだろうか。(聞き手&文:大野和基)
─―(大野)米大統領選におけるトランプ氏の勝利の要因の一つがホワイト・ワーキング・クラスの怒りであったことに、多くの人が賛同しています。ホワイト・ワーキング・クラスとは、どんな人たちのことを指すのでしょうか。
ウィリアムズ アメリカ人の53%を占める中流階級をワーキング・クラス(労働者階級)と定義します。この層にいる人々をわれわれは労働者階級と呼びますが、実際は中流階級のことです。アメリカ人は労働者階級という言葉を一貫性なく使います。
ちなみにエリート層が労働者階級という言葉を使うのと、中流階級層が労働者階級という言葉を使うのとは違う意味が生じてきます。私がホワイト・ワーキング・クラスとするのは、平均世帯年収が7万5000ドル(約800万円)より少し多い、アメリカ人の53%に当たる中流階級にいる白人です。
―─ホワイト・ワーキング・クラスは、具体的には何に怒っているのでしょうか。
ウィリアムズ トランプ氏の選出につながったのは、まさにアメリカ内陸部数州の約7万7000票でした。そのほとんどが白人中流階級です。
彼らの日常は、アメリカンドリームと乖離しつつあります。1940年代に生まれたアメリカ人のほとんどは、最終的に自分たちの親よりも収入が多くなっていますが、今日では親より収入が多い人は半分以下になっています。もし自分がそういう立場であれば、怒りたくもなりませんか?
怒りの原因はたくさんあります。第二次世界大戦後の何十年かは、経済成長とともに賃金も上がっていました。それが続いていれば、賃金は今の倍になっていたはずです。基本的な構図として、中間層から一握りのトップ・エリートへの大規模な所得の移転が起きている。彼らの怒りは当然でしょう。
―─それでも、そうした中間層の人々は、ほんの一握りの超富裕層を尊敬していますよね。
ウィリアムズ 確かにそうですね。そこは理解に苦しむところかもしれません。彼らは富裕層を尊敬している一方で、プロフェッショナル(専門職)に対しては怒りを感じている。プロフェッショナルというのは、彼らをこき使う工場の監督や、看護師に対して無礼な言い方をする医師たちなどです。
とくにプロフェッショナルと多く接する機会のあるブルーカラー(生産現場での肉体労働者)やピンクカラー(サービス業の人たち:店員、銀行の窓口係、ウェイター、ウェイトレスなど)は日々、プロフェッショナルに見下されていると感じています。
プロフェッショナル自身、プロフェッショナルに見下されていると感じていますから、彼らがそう思うのも当然かもしれません(笑)。
―─ワーキング・クラスとプロフェッショナルの間には、かなり深い溝がある印象ですね。
ウィリアムズ 多くの点において、ワーキング・クラスとプロフェッショナルの生活は、文化的にかなり異なっています。プロフェッショナルは個人の業績、功績、自己開発にかなり重点を置いており、すべての分野で先端を行きたいと思っている。
一方、中間層は安定と自己鍛錬にかなりの精神的な重点を置いています。この安定というのがとくに大事に考えられていて、彼らの生活を精神的に支えているのです。
このような両者の価値観の違いは、お互いにパターン化された文化の相違につながっているのです。食べ物一つとってもそうです。
中間層は、時代や世代を超えて長く好まれてきた、いわば実証済みのものをたっぷり食べたいと思っているのに対し、エリートはまだ実証されていない新しい食べ物を少しずつ食べるのが好きです。その方が洗練されていると考えるのです。
更新:11月21日 00:05