2010年12月15日 公開
2023年09月15日 更新
12月6日、都内で「環境技術が拓く地球環境維持と地域経済活性化の可能性」をテーマとしたフォーラム「PHPエコスクウェア(ECO2)」が開催されました。6月に国が発表した『新成長戦略』では、環境・エネルギー分野で2020年までに50兆円超の新規市場と140万人の新規雇用創出という目標が掲げられています。このフォーラムのテーマでもある「2つのE」、すなわち、環境維持(Ecology)と地域経済活性化(Economy)を相関させる方策がこれから問われることになります。
実は今年、この2つのEに関連する国の動きがありました。1つは「エネルギー基本計画」(6月策定)のなかで、再生可能エネルギー比率を現在の34%から2030年には70%(うち、太陽光などの新エネルギーが20%)へ高める目標を打ち出したこと。もう1つは、同じく6月に発表した「新産業構造ビジョン2010」です。これにより、国は、2つのEの相関のなかで日本の成長戦略を実現していくという方向性を示したと言えます。
では、その方向性に対し、国はどんな具体策を立てたのでしょうか。その格好のチェック材料が平成23年度予算案のなかの環境・エネルギー関連予算でしょう。詳細は、年末の予算内示と次期通常国会での審議をまたねばなりませんが、経済産業省が8月に発表した概算要求から1つの課題が浮かび上がります。それは、既存技術の活用施策が皆無ということです。同省の概算要求額1兆410億円では、「環境エネルギー分野における技術開発の重点化・加速化」などが新成長戦略実現の重点配分策として掲げられ、太陽光発電システムの次世代高性能技術開発(257.6億円)などの「技術開発の重点化・加速化」に関する事業ばかりが目立ちます。
国内には既に、海外資本が目を付けるほど優れた技術を有する中小企業が多数存在しています。しかし、その多くが従来、自己資金が乏しいために販路拡大できず、優れた技術も事業化(収益化)できなかった苦い経験を持っています。この「優れた技術があるが→実績がない→資金調達できない→販路拡大できない→価値を生めない(収益化しない)」という悪循環を断ち切るには、ボトルネックである実績不足の解消がカギになりそうです。
そこで、こうした中小企業には、既存技術の「モジュール化(組み合わせ)」にも力を入れることが求められます。既存技術が隣接分野へ波及し事業領域が川上・川下分野へ広がることで新たな価値を生みやすくなるばかりでなく、限られた資金・時間・労力の効率的活用にもなるからです。加えて、それを中小企業に可能ならしめる資金として、前述のフォーラムでも提唱された「技術振興ファンド」の創設などが具体化されれば、企業側の多様な局面での資金ニーズにもより柔軟に対応できるようになるでしょう。このような施策事業が民主党政権発足後初となる本格予算案に盛り込まれているかも、「環境・エネルギー大国」への政府の本気度を測る重要なチェックポイントと言えるでしょう。
(2010年12月13日掲載。*無断転載禁止)
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佐々木陽一 (ささき・よういち)
PHP総研 公共経営支援センターコンサルタント
1970年福井県生まれ。95年東京都立大学人文学部卒業。同年、(株)サンワコン入社。各種の都市計画業務に従事。2000年東京都立大学大学院都市科学研究科修了。玉川英則研究室(都市管理・計画)。03年PHP総合研究所入社。現在、自治体資産活用などのコンサルタント業務に従事。専門は、都市計画、まちづくり、地方自治。
更新:12月04日 00:05