2018年05月14日 公開
2020年04月07日 更新
2018年平昌オリンピックでは、ノルウェーが獲得総数38個と最も多くのメダルを獲得した。人口500万人ほどの国がいかに世界最高水準の競技力を維持するのか?
ノルウェーのオリンピック委員会によると、ノルウェーでは子どものあいだでは競争心をあおらないよう指導している。子どもにとってスポーツは楽しいもの、そして友達との関係を良くすることを目的にする。13歳くらいまでは決して勝ち負けや点数の優劣などを意識させず、楽しむことを促す。これこそスポーツが本来あるべき姿なのだ。
2006年トリノオリンピックのクロスカントリー女子チームスプリントの決勝戦で、2番目を走行していたカナダチームの選手がストックを折り4番手まで後退、そのとき近くにいたノルウェーチームのビョルナル・ホーケンスモーエン・ヘッドコーチが、予備のストックをカナダ選手に与えた。
その後カナダは挽回し、2位で銀メダルを獲得した。一時首位に立っていたノルウェーチームは、終盤に失速し最終4位でメダル獲得とならなかった。もし自国コーチがカナダチームを助けなければ、ノルウェーチームは銅メダルを獲得できたかもしれない。
ホーケンスモーエン・ヘッドコーチは「普通のことをしただけ」と、子どものころから教わった「たとえどんな状況であっても、共に走る者を敬い、助け合うことが重要」という言葉を実践したまでと語った。スポーツマンシップはまず指導者が模範を示し実行すること、選手の先頭に立ち背中で選手に教えることが重要だ。
相手を敬うこと、敬意をもつということは、スポーツマンシップの重要な要素だ。スポーツに関わるすべての者は、このスポーツマンシップの精神をしっかり育んでおくことが重要となる。
私は現在、追手門学院大学でアスリート教育を担当し、1年生にはライフスキルやスポーツマンシップを基に指導を行なっている。使用している教材「スポーツマンシップ・フィットネス」では、日常生活で実践を通しスポーツマンシップが育まれるよう構成した。
スポーツマンシップはスポーツをする上で必須であり、それが社会で生きるシチズンシップに繋がっていく。アスリート教育の重要な位置付けとして、とくに早い段階で実施することが望ましい。
現在国が進める大学スポーツ政策、いわゆる「日本版NCAA」でもアスリート教育はとても重視されている。今年は年明けから日本代表クラスやプロ野球選手トップアスリート(いずれも大学スポーツを経験したトップアスリート)、そしてプロ野球をめざす現役大学選手の不祥事が続いている(カヌー・ドーピング、競泳日本代表合宿暴力、強化費不正受給、ナショナルトレーニングセンター規約違反、元プロ野球選手の暴力事件、未成年飲酒など)。この事実を大学スポーツ界は深刻に受け止め改革していかないと、たんなる掛け声で終わってしまう。仏作って魂入れずだ。
メダルの数という"Cult of Olympic-Medals(オリンピックメダルに熱狂する)"ではなく、スポーツ界が社会を豊かにする責任という、明確な価値観と具体的な実行が必要だ。スポーツマンシップを実践したアスリートや指導者がその役割を全うしたとき、メダルの数は自ずと付いてくる、とノルウェーが示している。
更新:11月23日 00:05