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吉田良治 スポーツに暴力は必要ない

2018年05月14日 公開
2020年04月07日 更新

吉田良治(大学スポーツマネジメント研究会理事)

体罰にならないための指導法の確立

体罰を改める術がたんに犯罪だからだめ、では、体罰と同じく罰という抑止力で押さえ付けるだけで、根本的な解決法とはならない。乳児が泣き止まないと、暴力を振るう親も見受けられる。

言葉で伝えられないから、泣いて親にメッセージを送っているのに、それすら理解せず感情に任せ、わが子が暴行死に至る痛ましい事件も珍しくない。子どもや若者だけでなく、善悪の理解不足や感情のコントロールが未熟な大人も増えている。

人の成長とはすぐに結果が出ないものだ。子どもや若者はまだまだ善悪の区別を理解できておらず、また感情のコントロールも未熟である。大人は気長に若者の成長を見守り、導く気骨が求められる。

体罰のないスポーツ指導について、長年NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)や強豪大学のフットボールチームでヘッドコーチを歴任し、ジョージア工科大学で体育局長として全米初のアスリート教育、トータル・パーソン・プログラムを構築したホーマー・ライスは、「褒美や罰でやる気を引き出すことは、短期的に効果を得るかもしれない。しかし、長く効果を求めるなら、選手自身でやる気を引き出す必要がある。自己モチベーション(インサイドアウト)が重要となる」と語っている。

 指導者がすべきなのは、選手の良い面・悪い面を正しく評価し、建設的なフィードバックをすることだ。フィードバックは良い面と悪い面の比率を5:1の割合(魔法の比率)で伝えることが最も効果的である。重要なことは褒めたり叱ったりすることではなく、正しく評価したフィードバックと、それを選手が活かすための環境を整えることが指導者の役割である。

スポーツに限らず人の成長にはE.L.M(Effort,Learn,Mistake)が重要だ。つねに向上心をもって努力し、やるべきことを理解し、失敗してもそこから学び、再度努力する。失敗が成功への糧になる。失敗から何を学び、どう活かすのか、選手も指導者も失敗を成功へのチャンスとポジティブに捉える思考が重要だ。

日本学生野球協会から毎月のように発表される、高校や大学の野球部の不祥事には、指導者や選手間の暴力事案も多い。日本高野連審議委から日本学生野球協会審査室に上申された指導者の暴力は、2013年が68件で2016年には31件と減少傾向にあるが、指導者による暴力は依然2桁以上発生している。

「殴り聞かせる」という言葉はありません! 2010年に甲子園春夏連覇を成し遂げた沖縄・興南高校野球部の我喜屋優監督の言葉だ。感情が先走ってはいけない! 言葉で「言い聞かせる」ことが大切! と反暴力の指導を実践すると同時に、興南中・高校の校長兼理事長の立場として、社会人として人生の勝利者になってほしいと願い、いち早くスポーツ偏重のスポーツクラスを廃止した。“Nation Builder” は日本にも存在する。

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著者紹介

吉田良治(よしだ・よしはる)

大学スポーツマネジメント研究会理事

1962年、大阪府生まれ。86年、追手門学院大学経済学部卒業。米国・ワシントン大学アメリカンフットボールアシスタントコーチ、神戸商科大学アメリカンフットボール部コーチ、京都産業大学アメリカンフットボール部コーチなどを経て、現在、追手門学院大学客員教授、日本アメリカンフットボール協会指導者育成委員会副委員長、ホーマー・ライスリーダーシップアカデミートータル・パーソン・プログラムファシリテータ。

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