2011年12月26日 公開
2023年09月15日 更新
12月19日、北朝鮮の朝鮮中央テレビが報じた金正日総書記死去のニュースは、瞬く間に世界中を駆け巡り、日本でも緊張が走った。後継者への権力移譲が順調に行われるか、クーデターが発生し国内が混乱に陥らないか、北朝鮮が対外的な軍事挑発行動を取らないかなどの喫緊の懸念のほか、より長期的な観点から、六カ国協議はどうなるか、北朝鮮の核放棄や経済の改革開放を促すため国際社会はどのような働きかけを行うべきか、朝鮮半島での影響力拡大を目論む周辺国の競争はどのように繰り広げられるか、拉致問題解決への影響はどうなるかなどについて、分析・議論が盛んにされるようになっている。
金正日の後を継ぐ金正恩の体制が安定したものとなるかについては、まだ予断を許さないが、少なくとも金正日の死去自体は想定外だったわけでも意外な事件だったわけでもない。何年も前から、金正日後の北朝鮮情勢がどうなるかについて数多くの議論やシミュレーションが行われてきており、特に最近は権力移譲の動きが顕在化してもいた。現実はシミュレーション通りに推移するわけではないが、民主党政権も、過去に行われたシミュレーションの成果などを利用しつつ、その上に新しい情報や分析を加え、政策を考えていくべきである。
北朝鮮問題を解決するためには、関係諸国との協力も重要である。日本にとって特に重要なのは同盟国であるアメリカ、韓国との連携であるが、北朝鮮に対し最も大きな影響力を有する中国との協力も軽視すべきでない。2009年に北朝鮮が核実験を強行した際に中朝関係は一時的に停滞したが、その後両国は関係を修復し、2010年に北朝鮮が韓国哨戒艦を沈没させたときも(北朝鮮は否定)、延坪島を砲撃したときも、国際社会からの批判にもかかわらず、中国は北朝鮮を擁護した。2010年から2011年にかけ、故・金正日総書記は1年間に三度も訪中し、その間に金正恩氏が後継者となることを伝え、中国側もそれに対する支持を表明したと言われている。金正日死去の知らせが公表された後、胡錦濤国家主席ほか中国トップの常務委員9人全員が、北京の北朝鮮大使館を弔問しており、新華社に掲載された写真の様子は、さながら中国共産党の幹部が亡くなったときのようであった。
北朝鮮の権力移譲は、中国にとっても機会とリスクの両方の可能性をはらんでいる。もし、六カ国協議の他の参加国とも調整がうまく進み、協議が再開されることになれば、当該地域における自国のリーダーシップを示すとともに、最近対立を深めているアメリカとの緊張緩和にも役立てることができる。反対に、朝鮮半島で有事が発生し、米軍が北朝鮮まで進出してくるような事態になれば、中国にとっては悪夢である。また、中国にとっても、北朝鮮が中国の改革開放を見習い経済的開放を進め、国内を安定させることが中国の利益につながり、指導者の交代が北朝鮮に望ましい変化をもたらすことを期待している。しかし、同時にそれは、最近のミャンマーにみられるように、北朝鮮が他の国との関係を深め、中国と他国との関係を天秤にかける機会を増やすきっかけになるかもしれない。
中国にとっては、北朝鮮が安定し、かつ、中国の意向に従ってくれる国であることが望ましい。もともと中国の対北朝鮮政策は、日米韓のそれより北朝鮮に対し融和的であるが、北朝鮮の政情が流動的になっている今、中国は北朝鮮の猜疑心を招くような言動により慎重になっている。野田総理の初の訪中で実施された日中首脳会談でも、朝鮮半島の安定と平和のために両国が協力していくことは確認されたが、具体的な方策に関する言及はなく、拉致問題の解決についても中国側の支持は得られなかった。現状では、“朝鮮半島の安定”という大きな共通利益以外に、北朝鮮に関し、具体的政策で日中間の合意が得られる部分はそれほど多くない。それでも、中国は北朝鮮との関係や情報を多く有する国であり、六カ国協議の議長国である。中国に対し、日本の要求、日本ができる事・できない事を伝え、朝鮮半島安定のためのアイデアや、拉致問題解決と核兵器放棄を同時に推進していく案を提示していかなければならない。中国側から北朝鮮に関する情報や分析を聞く必要もある。また、そのような協議を通し、中国との間のパイプを増やしていくことも、とくに北朝鮮のように閉ざされた国を相手にするときには重要であろう。
(2011年12月26日掲載。*無断転載禁止)
更新:11月23日 00:05