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野田総理訪中に望むこと

2011年12月13日 公開
2023年09月15日 更新

前田宏子(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

このコラムを書いている最中(12/7現在)に、12日から予定されていた野田総理の訪中が延期されたというニュースが入ってきた。延期の理由は明らかではないが、報道では12月13日は74年前に南京事件が発生した日にあたり中国国内で関連行事が始まるため、総理の訪中と重ならないよう中国側が配慮したのではないかと言われている。真偽はともかく、中国側が日本に対し何らかの牽制をしかけるために遅らせた可能性は小さい。11月に訪中した玄葉外相への厚遇ぶりを見ても分かるとおり、いま中国は日本との関係改善を望んでいるからである。

中国では、最近の自国を取り巻く環境について、中国包囲網が形成されつつあるという警戒感が強まっている。オバマ政権の対中政策は、政権発足時よりも厳しい姿勢に転じており、南シナ海紛争への関与やTPPの推進など、中国にアジア太平洋で主導権を取らせないよう牽制する動きが出てきている。さらに来年は、アメリカ、中国、ロシア、韓国、台湾で指導者交代や選挙があり、国際情勢が大きく変化する可能性もある。先行きに不透明感が増す中、中国側には日中国交正常化40周年を利用し、日本との関係を安定させたいという思惑が存在する。

さらに、万が一昨年の尖閣衝突事件のようなことが再発すれば、日中間、あるいは日米-中間に軍事的対立のエスカレーションを引き起こす危険もある。最悪の事態にまで至らなくとも、中国脅威論を打ち消そうとする中国政府の努力は損なわれることになるだろう。また、そのような緊張状態が生じた場合に起こるであろう中国民衆の強硬な反応は、いつ中国共産党に対する批判に転じるかもしれず、とくに第18期党大会での指導者交代が近づいている今、中国の指導者らもそのような地雷を踏みたくないと考えているはずだ。

中国が日中関係の安定化を望んでいるのは日本にとっても好ましい情勢だが、それで両国の関係が著しく改善されると安心することはできない。原因は日本と中国の双方にある。中国側は、確かに日本との関係を改善したいと望んでいるが、期待値はそれほど高くない。最近、中国の日本研究者ら何人かに日中関係の見通しについてインタビューしたが、ほとんどが厳しい見方を示していた。日本の政権の不安定さ、政治リーダーシップの低さに対する評価ゆえである。他方、中国側も、首脳や外交部が対外的に説明していることと矛盾するような挑発的行動を抑えることができない。2007年に両政府間で合意した東シナ海ガス田共同開発がいっこうに実施に向けて動き出さないことも、日本に対中不信を植えつける大きな原因となっているが、第18回党大会を控え、中国側が国内の反対派を押し切り合意を実行できるかは疑わしい。

とはいえ、状況が変化するのをただ待っているには、両国が互いの関係から得ている利益が大きすぎる。目前の日中首脳会談や来年の国交正常化40周年に向けては、まず総理に、自分の言葉で中国の指導者らと日中関係の重要性について語ってきていただきたい。また、政権や指導者が代わっても、両国政府間の意思疎通が途切れないような枠組み作りを進めていく意思があると中国側に伝えてほしい。さらに、両国間の危機管理メカニズムの構築や東シナ海ガス田共同開発を、着実に進めていくよう中国側にしっかりと要求していただきたい。互恵の部分の協力を強化するのはもちろん重要で、経済協力や人の交流、持続可能な発展のための協力、防災、原子力の安全などに関する協力は実際に進んでいくだろう。しかし、摩擦を管理するための協力がさほど進んでいないことが、両国の信頼構築を妨げる原因となっている。両国の利益が衝突する分野においても、安定化措置や解決に向けた努力を行うことが必要だと、総理には率直に伝えてきていただきたいと思う。

(2011年12月12日掲載。*無断転載禁止)

 

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