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橋下大阪新市長に求められる市営住宅改革

2011年12月05日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

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「大阪都構想」の是非が問われた大阪市長選は、橋下徹氏(写真)が75万票を集めて圧勝した。52万票を得た平松市政にも一定の民意があるとはいえ、選挙結果は、大阪市民がより早く、より大きな変革を橋下氏に期待したことを示している。あらためて今、橋下新市長が取り組むべき課題を考えてみたい。

 大阪都構想を「目くらまし」と一蹴する平松氏に対して、橋下氏は、市と府の仕事が重複し責任の所在も曖昧な原因は、その統治機構にあるとした。いわゆる「二重行政」排除の切り札として大阪都構想を、具体策として公務員改革、教育改革、財政改革の主要3改革を訴えた。

 選挙結果は、大阪都構想の方向性に対する市民の信認を得た形となったが、政策の具体性は不十分だ。大阪都構想に現実味を持たせるには、二重行政による経営非効率な問題とその原因、そして処方箋を明示する必要がある。

 そこで、市長選では触れられなかった経営非効率な問題の1つとして公共施設、なかでも市営住宅の改革の必要性を指摘したい。大阪市には、数にして3,188、延床面積で約1,606万㎡という膨大な量の公共施設が存在しているが、そのうち、12.7万戸ある市営住宅は、431施設(約14%)、656万㎡(約41%)を占める。公共施設全体に対して、市営住宅の割合がこれほど突出して高い自治体は他にない。加えて、大阪市内には、府営住宅も13.8万戸が存在している。こうしたことと、市営住宅が此花・住之江・鶴見区など市の外周区に偏在していること、入居者は65歳以上が最多でそのなかには生活保護世帯が少なくないこととは、無関係ではないと推測される。こうした問題が、財務悪化と老朽化対策の遅れを惹起している側面がある。

 財務面については、市営住宅事業の歳出額479億円のうち、投資的経費(建設費)は約95億円と、平成18年度比で59%もの大幅減となっていること、人口1人当たりの住宅費は、東京23区の約3倍に当たる48,624円にも達することなど、財源不足のなか市営住宅の高コスト構造は残ったままだ。老朽化については、市営住宅全体のうち約45%の施設は、建築後の経過年数が既に30年を超えている。大規模な更新が必要だが、現在の施設量を賄うだけの更新財源はなく、対策の実施が遅れている。

 このように、大阪市の市営住宅は、供給過多・財務悪化・老朽化対策の遅れ・施設の偏在・生活保護世帯の多さという「合併症」を併発している可能性が高い。したがって、容易ではないが、再編・統合を含む市営住宅の抜本的な見直しは、重要課題の1つと言える。

 橋下氏は、今年6月の政治資金パーティーで、「今の日本の政治で一番重要なのは独裁。独裁と言われるぐらいの力だ」と発言し物議を醸した。しかし、今回の選挙で大阪市民は、橋下氏の政治手法を支持した。独裁とリーダーシップは紙一重と言われる。はたして、橋下新市長による大阪市の経営改革は、独裁的手法をもって合併症に立ち向かうことができるだろうか。橋下氏の経営手腕に注目したい。

(2011年12月5日掲載。*無断転載禁止)

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