2011年11月30日 公開
2023年09月15日 更新
期待が膨らむ新政権
提言『野田総理に望むこと』を官邸に届けたのは、9月2日のまさに皇居で親任式が行われていた時間であった。これまでも新政権が誕生するたびに、同じように提言を行なってはきたが、民主党政権3代目となる野田総理に対する期待は格別なものであった。それは野田総理が、繁栄・平和・幸福の実現というPHP研究所創設と同じ願いのもとで松下幸之助がつくった松下政経塾の1期生であるということもある。だがそれより、不安定で短命な政権が続き重要案件が遅々として進捗しないなか、確実に政治を前進させて欲しいという強い願いがあったからである。おそらく大方の国民も同じような気持ちをもっていたに違いない。
政権発足まもなく、経産相の失言による交代や本人の外国人献金問題などが生じ、いきなりガードレールを擦ったが、体勢を立て直して、野田政権は宣言どおり安全運転をしているように思われる。まだまだハネムーンといわれる100日そこそこではあるが、支持率が意外と落ちないのは、やはり安定感が評価されている結果であろう。とはいえ、総理はこれから山あり谷ありの険しい道をアクセルを踏み込んで進まなければならない。安全運転を決め込んでノロノロ走り続けることなど国民も世界も許してくれないだろう。
新政権と共に「解」を探すこと
どういう難所が待ち受けているかについては論を俟たない。総理が「最大の使命」とした大震災からの復旧・復興と原発事故の収束、さらには経済の建て直しが、わが国にとっての優先課題である。内容の是非についてはここでは問わないが、復興のための第三次補正予算、復興財源の確保、復興庁法案、復興特区法案など、早急に決定し実行しなければならないことが目白押しとなっている。原発については年内に冷温停止達成の見通しが示されたが、除染や廃棄物処理については納得できる状況にはなっていない。社会保障と税の問題もこれからである。さらに、TPPや普天間基地などの問題については、国内を二分する立場や意見を集約し、妥協点を模索しながら同時に外国との交渉を進めるという極めて高度な能力が要求される。
ただでさえ総理の仕事は激務である上に、歴代総理が残していった数々の重要案件、さらに加えて歴史的な大震災からの復旧・復興という重荷がのしかかっている。現在のわが国は、敗戦以降何度も経験したことのない危機的状況にある。歴代総理の誰であったとしても、この局面をうまく乗り切るのは困難であろう。したがって、ノロノロ運転だからといって、いたずらに野田政権を責めるべきではない。我われがなすべきは、野田政権と一緒になってこの危機から脱却する「解」を探すことである。ハンドルの切り方とアクセルとブレーキの踏み方を一緒に考え、この難所を切り抜けるということだ。これは急ハンドル、急加速、急ブレーキを繰り返してきた前任者たちとは異なる総理だからこそできることでもある。
国の目的地設定を
その解を探る一つの方法が、日本が目指すべき中長期ビジョンの策定である。この10年・20年後のわが国をどのようにしたいのか、あるいは、すべきなのか、経済、社会、生活、国際的役割などの分野を含めた将来像を可能な限り具体的な目標をもちながら描くのである。その上で、あらためて現実を見る。そこには大小さまざまな乖離があるだろう。その乖離をなくすために何をなすべきかという観点から、各分野それぞれに政策をつくり、実施していくのである。換言すれば、ナビである。目的地を設定し、ルートを検索し、それにそって車を走らせるということだ。これまでのやり方は進むべき方向がなんとなく分かっていても、次々とやってくる危機に対応するために、むやみにハンドルを切ってきたかのようである。たしかに、危機回避は重要であるが、目的地が設定されないままハンドルを切り続けていては、わが国はとんでもないところに到達しかねない。
国における目的地設定を担うのは国家戦略会議である。野田総理が議長を藤村内閣官房長官と古川国家戦略担当大臣が副議長を務めるほか、主要大臣ならびに有力民間人がメンバーとなっている。10月末に初会議が開かれたが、具体的な活動はまだ見えていない。この国家戦略会議の役割は極めて重要である。今後の活動を注視するとともに、大きな期待を寄せたいと思う。
(2011年11月30日掲載。*無断転載禁止)
本稿を含む『政策研究Highlight』
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更新:11月23日 00:05