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ニューオリンズで進む被災住宅再建

2011年11月23日 公開
2023年09月15日 更新

荒田英知(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター長)

 アメリカ南部ルイジアナ州のニューオリンズ市を訪れる機会を得た。巨大ハリケーン・カトリーナに襲われ、甚大な被害に見舞われたこのまちがどのように復興しているかは、東日本大震災からの復興にも参考になるものと考えられる。

 2005年8月29日に上陸した超大型ハリケーン・カトリーナによって、ニューオリンズを取り囲むミシシッピ川とポンチャートレイン湖の水位が上昇。市域を取り囲んで整備されていた堤防が相次いで決壊するなどして、海抜以下が多く「スープ皿」と形容される市街地に濁流が押し寄せ、市域の8割もが水没した。

 直前のハリケーンで発令された避難命令が進路の変化で空振りに終わったことも災いして、避難が遅れた市民が相当数に上った。その結果、高齢者や貧困層などの災害弱者を中心に約1800名もの死者を出すこととなった。それから6年が過ぎ、被災直後には半減した人口も、現在では8割程度まで戻っているという。空港から市街地に向う幹線道路を走る限りでは、被災の爪あとを見ることはなく、復興が進んでいることを伺わせた。

 市中心部にあるルイジアナ州立博物館には「Living with Hurricanes Katrina and Beyond」と題する展示があり、カトリーナによる被災前後の様子を知る事ができる。被災直後の数多くの写真は、まちを襲った水の威力をまざまざと示しており、私たちが知る東日本大震災での津波被災地の様子と瓜二つであった。

 翌日、市内を視察した中で興味深かったのは、住宅再建の手法である。すでに多くの被災住宅が撤去され、新築されるか更地に戻るかしている。しかし、なかには家主が避難先で仕事に就くなどして、今も放置されたままの住宅も散見された。

 新築された住宅の多くは、基礎部分が1メートル程度かさ上げされ、次の水害への備えが施されている。カトリーナによる浸水は3~4メートルに達し、住宅の一階部分で溺死した例が多いとされるため、最悪でも一階の水没は避けるという減災措置と思われる。かさ上げには一軒当たり3万ドルが補助され、施行業者が申請を代行しているという。

 一方で、俳優のブラッド・ピット氏が呼びかけ、被害の大きかったミシシッピ川の南岸地区で住宅建設を進める「Make it Right」プロジェクトも進んでいる。こちらは、堤防から近いことを考慮してか、2~3メートルかさ上げした高床住居を基本に、太陽光発電も加えたエコ住宅をコンセプトとしている。150軒の建設を目指して自ら寄附を行なっているが、資金は伸び悩んでおり、現時点では約30棟が完成し10棟あまりが建設中であった。

 東日本大震災の津波被災地では、浸水地域の土地利用が大きな課題となり、特に住宅を再建する場合のルールづくりが急がれている。ニューオリンズでの取り組みは、そのまま適用することはできないにしても、複数のアプローチがあるという点も含めて示唆に富むものといえる。

写真1 放置されたままの被災住宅       写真2 基礎部分を残す被災住宅
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写真3 かさ上げして新築された住宅       写真4 B・ピット氏が進める高床住宅
111121時事解説写真3.jpg ***** 111121時事解説写真4.jpg

(2011年11月23日掲載。*無断転載禁止)


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