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ハコモノ改革最前線~施設白書で市民に問題提起~

2011年10月24日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

 これまで地方自治体が建設してきた公共施設の多くが老朽化し、更新や廃止を迫られている。公共施設マネジメントを効果的に推進するにはどうしたら良いか、茨城県取手市を事例に考えてみる。取手市はこのほど、政策情報紙『蘖(ひこばえ)』(2011年9月発行)に「公共施設のこれからを考える」特集記事を発行して市民に問題提起した。これは、同市が7月に『公共施設マネジメント白書』を作成したのを機に企画された。

 取手市が公共施設マネジメントに着手した理由は、昭和40年代以降に建設された公共施設の多くが老朽化していること、市町村合併に伴い重複施設の統廃合が課題になっていることがある。同市が保有する公共施設数は110、延床面積で東京ドーム5.5個分もある。今後20年、施設の維持更新費用だけでも毎年37.8億円が必要だ。これは、同市の公共投資予算(投資的経費)である23.6億円の1.6倍に達する。

 全国的には、ピーク時の膨大な更新費用を長期間で平準化させるため、公共施設の長寿命化工事を行う自治体もある。しかし、こうした対策は、量的過剰、質的劣化という問題の根本的解決には程遠い。今後、学校、庁舎をはじめ老朽化した施設が一斉に更新期を迎える一方で、公共投資予算の圧縮が続くからである。

 「財源がないなら一律に施設サービスをカットすべきだ」「財源がなくても必要な施設を切ってはならない」など、公共施設のあり方を巡る市民の意見は多様である。どの施設をどのように更新するかを合理的に議論しないと、必要な施設の老朽化が放置される一方、政治力で本来不要な施設が建て替わってしまう。その結果、次世代に問題が先送りされるというのは最悪のシナリオである。

 このシナリオを回避するには、公共施設の規模と老朽化度の把握や更新費用を算出し、財政的に可能な範囲で維持する公共施設の優先順位付けを行い、それに従って施設を整理統合するしかない。この一連の取り組みこそ「公共施設マネジメント」である。この取り組みの前提として、施設情報をまとめた資料を「白書」や「計画」と称して公表する自治体も増えている。その一方で、「その先(整理統合)に進めない」と悩む自治体も少なくない。最大の原因は、住民にとって施設情報が難解で分かりづらいからだ。

 藤井市長は「蘖」のなかで、「受益者のみではなく市民全体、納税者全体で(公共施設の)方向性を見出すためには、白書を基に情報の共有化を図ることが大切」で、そのためには、「"納得感"が得られる情報として、いち早い白書の作成が必要だった」と、その価値を強調している。今後は、市民、議会、職員への説明、記者発表など機会あるごとに白書を活用することは勿論のこと、公共施設の整理統合案などについて市民と議論する場の設定も求められる。白書作成の意義は、結局のところ、整理統合などの具体的な対策やその実行に活かされたかにかかっている。自治体における公共施設マネジメントの潮流は、「情報整備」から「整理統合」という新たな局面に移りつつある。


■関連情報はこちら
  ・取手市政策情報紙『蘖112号』(11年9月発刊)
  ・取手市『公共施設マネジメント白書』 (11年7月発表)
  ・PHP『施設白書研究会』 (11年5月発表)

(2011年10月17日掲載。*無断転載禁止)


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