2011年09月28日 公開
2023年09月15日 更新
9月20日、政府は、円高総合対策の中間報告を公表しました。今日の為替水準が長期化すれば中小企業の海外移転も加速し、日本国内には雇用不安が広がる――、そうした空洞化への懸念も出ている中で、古川経済財政相は、従来の円高対策との違いを次のように語っています。「今回は痛みの緩和のみならず、為替水準に左右されない強靭な経済構造に変えていくことに力を入れる。円高メリットの活用を盛り込んだ。ディフェンス面だけでなく、日本の産業が世界の成長産業あるいは、M&Aで資源を獲得するなど、攻めの姿勢を示した」。
対策の中味は、まず、「円高の痛みの緩和策」として、雇用を確保するための雇用調整助成金の要件緩和、中小企業の資金繰りを支援するため低利融資を拡充するとしています。次に、「円高メリットの徹底活用策」として、海外企業買収支援や資源、エネルギーの確保を促す施策を挙げています。さらに、「産業空洞化への対策」として、企業立地補助金の拡充、11年度税制改正法案に盛り込まれた法人実効税率の引き下げ実施を掲げています。このように、中間報告は、円高対策に加えて、国内産業の空洞化を阻止するための政策を盛り込んだことが特徴です。
産業空洞化という現象には、2つの意味合いが考えられます。1つは、本来ならば国内に立地して雇用を守ってくれるはずの企業が、円高や税によってやむを得ず国外に流出してしまう、言わば「受けの海外移転」現象です。これは回避すべきです。もう1つは、市場近くに生産拠点を移し間接コストを下げるなどして新たな海外市場を獲得していく、言わば「攻めの海外移転」現象です。そうした意欲を持つ企業に対して政府は、むしろ海外進出を支援すべきでしょう。日本企業が海外での業績を伸ばせば、長期的には、日本国内に研究・開発部門や技術の粋を集めた工場を設けるなど、めぐり巡って日本経済を下支えする力となることも期待できるからです。
それには、企業が海外で得た利益を日本国内に還流させるしかけを作れるかが成否のカギを握ります。具体的には、日本国内での雇用拡大、設備投資、製品の高付加価値化、研究開発投資を行う場合に、企業の海外進出で得た利益に減税措置を適用する方法などが挙げられます。企業側からすれば、国内に本社機能を残しつつ、製品・サービスの輸出競争力を強化するための原資として資金を循環させることができるようになります。戦後最高値域にある円高への対策として政府に求められることは、とりわけ中小企業の海外で「稼ぐ力」を中長期にわたって、より強くし、稼いだ利益を国内に還元してもらう流れを促していく政策と言えるでしょう。政府にとって喫緊の課題は、そうした政策を2011年度第3次補正予算案にきっちり反映させることに他なりません。
(2011年9月26日掲載。*無断転載禁止)
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更新:11月22日 00:05