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ソーシャル・メディアでお役所仕事は変わるか

2011年09月15日 公開
2023年09月15日 更新

茂原純(政策シンクタンクPHP総研コンサルタント)

 佐賀県武雄市の事例を見てみましょう。
 武雄市役所は、2011年8月1日から公式ホームページを廃止してフェイスブックに一元化するなど、ソーシャル・メディアの活用に極めて意欲的です。ツイッタ―やフェイスブックを使ったリアルタイムでの情報発信や、市民との双方向コミュニケーションを図っていることはもちろんですが、行政経営の上でもいくつかの効果を挙げています。

 第1は、コミュニケーションの「見える化」で縦割りの壁を崩すことです。武雄市では、樋渡啓祐市長のリーダーシップのもと、市民の声を届きやすくすることや、市役所で働いている職員やその仕事ぶりを市民に知ってもらうことなどを目的に、職員全員にツイッタ―のアカウントが配布され、半数近くの職員が各自の仕事(やプライベート)についてつぶやいています。この結果、それぞれの部署で誰が何をやっているのかを知ることができ、お互いを意識することで、連携する気運がより一層高まっています。特に、役所の職員はローテーションでいろいろな仕事を担当していきますので、職員が悩みをつぶやけば、他の職員がアドバイスをしてくれるなど、助け合いの文化が根付いていくことも予想されます。

 第2に、市長が役所の様々な人材・仕事を把握できることです。ツイッタ―やフェイスブックで情報発信をさせることで、市長自身が、役所にどんな人材がいて、どんな仕事に取り組んでいるのかなどを比較的把握できるようになってきます。すると、市民から直接届いた要望を適切な担当者にふったり、役所の仕事ぶりについて直接意見を言ったりすることが可能になってきます。

 例えば、役所の職員採用のお知らせについて、フェイスブックで次のようなやりとりがあります。

 武雄市役所   「平成23年度 職員採用試験案内(民間企業等職務経験者対象)」  樋渡 啓祐 市長 「この案内だけだと、味気なさ過ぎて、誰も中まで見ないよ。昨日も      言ったし、改善しようよ。」  武雄市役所   「はい。今日再アップいたします。」

 このように、市長がすぐ様リプライを行い、的確な指示を出すことも可能になったと言えます。これは、従来の公式ホームページではできなかったことです。反対に職員にしてみれば、市長が目を光らせているので気を抜けないという、緊張感が生まれていると言えるでしょう。

 第3は、市民と「つながる」ことで職員の「モチベーション」を高めることです。民間企業の経営でも大きなテーマになっているのが社員の「モチベーション」の向上ですが、武雄市ではソーシャル・メディアの活用がそれに大きく貢献しています。一般に、今まで役所の仕事が市民にさらされることは少なかったと言えますが、ツイッターなどで、職員個々人が取り組んでいることをきめ細かく情報発信することで、市民から直接感謝のコメントが届くことも増えています。すると、市民に貢献していることを実感できるため、やる気が高まり、褒められるためにどんどん情報発信していく、そのために仕事を頑張っていく、という好循環が生まれます。

 武雄市のソーシャル・メディアへの取り組みはまだ緒についたばかりで、これからいろいろと課題が出てくるかもしれません。しかし、今まで役所の常識として捉われがちであった、「公的機関は間違ってはいけない」という認識からくる保守的な文化や組織の縦割りなどの弊害を克服する試みとして、これからも注目していきたいと思います。

(2011年9月12日掲載。*無断転載禁止)

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