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野田総理への提言 [その5] 

2011年09月12日 公開
2023年09月15日 更新

政策シンクタンクPHP総研

「政策を速やかに実行できる政治体制を確立せよ」

 前政権が支持を失った大きな要因が実行力の欠如である。いま国民が野田総理にもっとも期待するのは、懸案事項について速やかに議論を進め、決まったことを確実に実行することである。「ねじれ国会」のなかでは難しいことではあるが、政党内、政党間、政官関係、中央地方関係、国民との関係などを整備することで、それは可能となりうる。復旧・復興、景気の回復、持続可能な社会保障の確立、強力な外交指導もそうした体制を築くことこそが早道となる。

(1)軽々に解散総選挙は行なわず、やるべきことに腰をすえて取り組む
 民主党の正統性は、マニフェストの実施状況をみても支持率をみても、低下しているのは確実である。前回の総選挙から3代目となる野田総理にとっては、みずからの正統性を確保するために、長い時間を空けずに解散総選挙を実施するのが本来あるべき姿であろう。しかしながら、国難ともいえる状況下においては、まずは腰をすえて、野党との連立や協力関係の構築を視野に入れながら、目前の案件に一つひとつ誠実に取り組むことが重要であり、軽々に解散総選挙を行なうべきではない。

(2)日本の将来に「希望」をもたらす、中長期的ビジョンをつくる
 喫緊の課題への地道な取り組みと同時に進めなければならないのは、この国のあるべき姿を示す中長期的ビジョンの策定である。かつて自民党政権はたびたびそうしたビジョンづくりを行なってきた。とりわけ大平政権の「環太平洋構想」「田園都市構想」「総合安全保障」などは、以降の政策づくりの指針になったといえる。変りつつある国際社会、歴史のうねりのなかで、日本はどのような国としてこの繁栄を維持し生き残っていくのか、という国民全体が共有できる「希望」が必要である。それがなければ、政治は単なる「我欲」の調整に終わってしまう可能性がある。将来への「希望」があればこそ、国民お互い負担の増加にも耐え、ともに前進することができるのである。

(3)経済財政諮問会議の枠組みを使い、総理のリーダーシップを発揮する
 民主党政権の問題の一つは、政府内の会議が乱立するなど、国民にとってわかりづらい政策決定プロセスにあり、それが政策が場当たり的との印象を強めている。このため、野田総理は自民党政権時代の経済財政諮問会議の枠組みを使い、みずからのリーダーシップを国民に見えるかたちで発揮する必要がある。すなわち、諮問会議の議長を総理とし、総理が方針を指示した後は各省から改革案を提出させる。会議の場で総理が了解した改革案をまとめ、閣議決定を行う。仮に改革案が不十分であるときは、総理みずから各省に対して再提出を指示する。このような総理指示に基づく政策のとりまとめ過程を公開することで、政策に対する国民の理解を深めることができる。

(4)広報チームを強化させ、方針や政策を国民に分かりやすく訴える
 改革は既得権益を破壊するものであり、総論賛成としても、各論になると、利益団体、政治家、官僚を含め、既得権益をもつ多くの勢力が反対の立場をとることが多く、改革の実現は極めてむずかしい。改革を断行するためには、閣内の見解の一致ならびに多数の国民の理解と支持を得ることが肝要となる。野田総理は官邸内の広報チームに民間人を起用することも含め説明責任の体制を強化し、閣内の調整と他分野にわたる政策の整合性を踏まえたうえで、国民に分かりやすく訴える必要がある。

(5)民主党政権の一丁目一番地「地域主権」改革に立ち返る
 民主党政権が誕生した際に最重要政策と位置づけられたのが、いわゆる「地域主権」改革である。財政逼迫さらには経済停滞も戦後長きにわたって維持されてきた中央集権的な国のありかたに起因するところがあり、日本を再活性化させるためには、権限や税財源の国から地方への移譲を進めなければならない。これは地域のことは地域が決めるという地方自治の原則を目指すものでもある。当初は地域主権担当の大臣が設置され、一括交付金なども導入されたが、踏み込みとしては不十分である。野田総理は「地域主権」改革の重要性を再認識し、その推進のために新たな体制を整えるべきである。

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