Voice » 経済・経営 » 社会資本整備事業特別会計「廃止」で何が変わるのか

社会資本整備事業特別会計「廃止」で何が変わるのか

2010年11月24日 公開
2023年09月15日 更新

松野由希(政策シンクタンクPHP総研特任研究員)

松野由希 

事業仕分け第三弾の前半戦として、特別会計の仕分けが10月27日から4日間にわたって行われました。そこで、「特別会計の事業仕分けで問われる第3のポイント」(10月25日掲載)で示した論点を中心に、特別会計の仕分け結果について検証していきたいと思います。

 今回は10月28日に実施された社会資本整備事業特別会計をとりあげます。仕分けの結果、空港整備勘定を除く、道路整備・治水・港湾・業務勘定について、廃止して一般会計化するという決定がなされました。これにはどのような意味があるのかを考察してみましょう。

 特別会計のメリットは、ある分野の歳入・歳出予算が区分経理されていることによって、受益と負担(利用料や負担金)の関係が明確になるということです。このほかに、剰余金が次年度に繰り越せる、積立金が設定できる、財政融資資金の借入ができるといったメリットもあります。道路・治水・港湾の各勘定については剰余金が存在しますが、積立金は設けられておらず、借入も行っていません。剰余金の処理が考慮されれば、一般会計化してもひとまず制度上は問題がないということが言えそうです。

 ただ、一般会計化することで受益と負担の関係性が見えなくなることは問題です。現在、特別会計の一般会計からの受入割合は、道路66%、治水74%、港湾75%となっており(平成23年度概算要求)、それ以外は関係する自治体や受益者からの負担金を収入としています。これまでも特別会計は分かりづらいと批判されてきましたが、一般会計にすれば受益と負担の対応関係はますます分かりづらいものとなるでしょう。

 特別会計の統合や、一般会計化といった形で経理の仕方を変えることで、事業の効率化が図られるのであれば、このような見直しを行うことが望ましいと思われます。もし、このような効果が見込めないのであれば、制度変更をする意味はありません。経理の仕方の変更が事業の効率化にどのような影響を与えるかについて、これまでの経緯を見てみましょう。

 もともと社会資本整備事業特別会計は、平成20年度に道路・治水・港湾・空港・都市開発資金融通の5特会を統合する形で設けられたもので、道路・治水・港湾・空港の4分野の勘定と業務勘定から成っています。この制度変更によって、 社会資本整備の分野横断的な統合効果が得られることが期待されました。

 統合効果としては、事務経費の節減ができたのか、事業費の削減ができたのか、分野横断的な事業調整が可能になったか、地域が本当に必要とする事業が実施されるようになったのか、といった点があげられます。しかし、仕分けの場では、業務勘定の統合により、一定の経費節減効果は得られましたが、それ以外の効果については明確な説明がなされませんでした。会計を統合するだけでは、十分な成果は挙げられなかったのです。

 期待される成果を挙げるためには、どのような改善が求められるのでしょう。統合に期待される効果としては、各分野の施設整備を横断的に考えることで、限られた予算制約の中での事業の優先順位を明確にできることや、各分野の施設整備を有機的に結び付けることで、単体としての効果を上回る効果が期待されるといったことがあげられます。経理の仕方のみを変更(各分野の統合や特別会計の一般会計化)しても、分野間の調整が十分になされず、依然として分野毎に政策判断がなされているままでは、総合的な効果を発揮することはできません。

 地域の実情を十分に知らない国が事業実施についての意思決定をしている限り、地域の中での分野横断的な投資の優先順位付けはなされないのではないでしょうか。さらに今回の仕分け結果では、空港勘定を別扱いとしたことで、空港と他の社会資本の優先順位の決定ができるのかも疑問視されます。特別会計の仕分けにおいては、数合わせで廃止や統合を決定するのではなく、事業効果をあげるために制度全体がどうあるべきなのか、という視点が重要ということになるのです。

(2010年11月08日掲載。*無断転載禁止) 政策シンクタンク PHP総研 Webサイト【http://research.php.co.jp/】(PCサイト) 政策シンクタンク PHP総研の最新情報はメルマガで⇒【http://research.php.co.jp/newsletter/】(PCサイト)

img01.jpg 松野 由希 (まつの・ゆき)
PHP総研 政治経済研究センター特任研究員
 宮崎県生まれ。2000年法政大学経済学部卒業。2006年法政大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。黒川和美研究室(公共経済論)。2006年より3年間、財団法人運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員。2009年よりPHP総研特任研究員、法政大学理工学部非常勤講師。2010年より嘉悦大学経営経済学部非常勤講師。専門は交通経済・公共経済。

Voice 購入

2024年8月号

Voice 2024年8月号

発売日:2024年07月05日
価格(税込):880円

×