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復興提言にみる将来の東北の姿

2011年07月06日 公開
2023年09月15日 更新

金坂成通(政策シンクタンクPHP総研研究員)

 6月25日、東日本大震災復興構想会議から「復興への提言~悲惨のなかの希望~」が菅総理に答申されました。復興財源として増税が示されたため、各種報道は増税が中心となりましたが、本来は東北復興の青写真を描くことが目的でした。そこで、提言が東北をどのような地域として復興させようとしているかについて見てみました。

 まず、甚大な津波被害を受けた地域については、被害を最小化するように備える「減災」の考え方が重要視されています。提言では津波の到達範囲と土地の特性に応じて地域の5類型を示しています。共通する事業は、市街地を津波から守るため、土地をかさ上げしたり、住宅を内陸部もしくは高台に移転することです。さらに、沿岸地域に残る農地や水産関連施設を含む産業機能の減災のために、避難タワー等が整備されます。

 このように、まず津波に備えての集団移転や土地区画整理事業などを実施したうえで、「あらたなまち」の姿は、次のように提示しています。

 まず、学校施設の機能が強化されます。災害時に避難場所や防災拠点になるだけでなく、防災教育を通じて新たなコミュニティ作りを進め、学校が地域コミュニティの核となるのです。さらに、「地域包括ケア」と呼ばれる保健・医療、介護、福祉サービスが一体となったまちづくりが進められます。小中学校区程度の数千人規模のまちの中心に、学校、認定こども園、居住地、小規模多機能施設等が配置され、コミュニティの交流拠点となります。それを越える市町村レベルの数万人規模の範囲には、職場や市役所、病院や老健施設が配置されます。その医療・健康サービスを一体的に提供するため、地域医療の電子化・ネットワーク化を活用した次世代医療が構築され、大学と東北の強みである電子部品企業が連携し、新たな医療産業の創出が促進されます。さらに、それらの分野の人材育成のため、教育機関も配置され、少子高齢化社会のモデルを目指します。

 また、再生可能エネルギーの利用やガスタービン発電などのコージェネレーションなど、地域自立型エネルギーの導入が促進され、地域全体のエネルギー需給をコントロールするスマートシティ・スマートビレッジとなります。それは、太陽光や風力などを積極的に利用することに加え、第1次、2次、3次産業の融合による6次産業化と同時に、その新産業施設から排出された廃棄物をバイオマス(有機燃料)として再利用するような、エネルギー効率の良い都市を作るものです。それらに加え水産業は、漁港機能の集約や漁業者と民間企業の連携促進で発展します。

 特に福島に関しては独立した章を設けて、原発事故に対応して放射性物質を除去するための研究拠点の設置、医薬品・医療機器・医療ロボットなど、先端的な医療機関を整備し、医療産業の集積地となります。また、再生可能エネルギーの「先駆けの地」となることを目指しています。

 以上のような東北の姿を実現するために、提言は市町村に土地利用計画手続きを一本化するなどの「特区」制度の活用を求めています。提言に示された東北が画餅とならないよう、具体化をどう進めるのか。今後、政府には知恵と工夫が求められます。

(2011年7月4日掲載。*無断転載禁止)
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