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「IoTの伝道師」が語る日本人の美徳とこれから100年の産業モデル

2016年01月09日 公開
2024年12月16日 更新

帝都久利寿(コネクトフリーCEO)

絶対に日本人とは付き合うべきだ

 

 ――現場で働く方の努力に頭が下がります。

 帝都 それで思い出すのは、私がティーンエイジャーだったころの話です。東京の勝どき近辺を歩いていたら、工事現場のところで目の前に社長と部下とおぼしき人が連れ立って歩いていた。暑い日で、工事現場の辺りで社長がハンカチで汗を拭ってズボンの後ろのポケットに無造作に入れたら、ハンカチが地面に落ちてしまった。私のいるところからやや距離があったので「落としましたよ」とも声をかけられず、ただ見ていました。すると工事現場の作業員が落ちたハンカチに気付いて、自分の仕事を中断してハンカチを拾い、社長に渡しました。そのとき、社長の態度が一変したのです。

 

 当時はあまり日本語ができなかったから、何をいっていたのか、満足に聞き取れなかった。でも明らかに、その社長は「申し訳ない」という態度で作業員に謝っていたのです。何に謝ったかといえば、自分の不注意で作業員の仕事をストップしてしまったことに対してです。

 その瞬間、私の世界観は一変しました。アメリカでは、工場や現場で働く人たちを見下すのが当然です。ところが日本では、たとえ社長であっても自分が悪いと思ったら一所懸命、謝る。そのような考えは当時の自分にはありませんでした。あの日から、「絶対に日本人とは付き合うべきだ」と思った。

 もちろん「徳」をもっているのは、日本人だけではありません。たとえば台湾の李登輝元総統にも「徳」を感じますね。数年前、IoTの仕組みやコネクトフリーのIoT通信チップを説明しようと各地を回ったとき、最も反応がよかった国が台湾でした。李元総統を紹介していただき、私たちのプロジェクトを説明したら、全面的なバックアップをいただけることになった。ご自宅で直接、本人とお話しして驚いたのは、とにかく国と国民のことを第一に、真剣に思っている。自分のことなど二の次で、命の限り台湾のために尽くそうとされている。変な表現ですが、「政治家なのにこんな人物がいるのか」と思った(笑)。

 ――私利私欲ばかりの議員がいかに多いか、ということですね。帝都さんと李登輝元総統の出会いは、日本にとっても神の采配と思うような幸運です。

 帝都 最初に会ったときから、なぜかおじいちゃんと孫のように当たり前に付き合っていますね。ちなみに先日、台湾に行って発見したのは「相性」という言葉について。よく日本では「私はあの人と相性がいい」といいますが、台湾の人たちに「相性がいい」という言葉を使ったら、意外にも通じなかった。相性という意味を指す語がなかったのです。考えてみれば、英語でも「相性」に当たる言葉は思い付かない。興味深いと感じました。

 日本語の「徳」や「相性」、「間」や「もったいない」など特有の概念を外国人に伝えるのはたしかに難しい。むしろ日本は言葉よりもメイド・イン・ジャパンのモノを通じて世界から認識されてきたところがあります。だからこそ、IoTという「モノのインターネット」の概念が生まれたのは日本にとって画期的なことです。

 ――その半面、日本には「謙譲の美徳」という言葉があります。自分を主張せず、相手の立場に立って何事も譲ることが徳である、という考え方です。これは、先ほど帝都さんがおっしゃった「世界に打って出る日本」と逆のイメージという気もしますが。

 帝都 だからこそプラザ合意をはじめ、日本は多くの局面でアメリカに敗れたわけです。その弱点を補うために、私という人間が日本にやって来たのだと思う(笑)。日本人は美徳や平和を守りつつ、堂々と「お金を稼いで何が悪い」「いずれ日本のガラパゴス製品がスタンダードになる」と主張するぐらいでないと。軍事的にはともかく、経済的・文化的にはもっと世界に攻めていって、日本らしさを積極的に売り出してほしいですね。

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