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米軍基地と原発の立地政策とNIMBY問題を考える

2011年06月29日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研コンサルタント)

 米軍普天間基地の移設問題について、このほど政府は、米国との外務・防衛担当閣僚会合で沖縄県名護市辺野古に計画する新たな滑走路を、自公政権時代に決めたV字型(2本)のままでいくことを成案としました。しかし、地元は「絵空事だ」(仲井眞沖縄県知事)と反発しています。その理由は、地元にとって基地が騒音・治安面で問題の多い施設であるとともに、それらが同県内に集積しているからです。東日本大震災で問題化した原発と合わせて、政府は、地元の切実な声に耳を傾け、施設立地をどのように見直していったら良いのでしょうか。

 NIMBY(Not In My Back Yardの略)とは、それがあることで得る利益は手放し難いが、それが自分の近くにあっては困る、という人のエゴを表す言葉です。国は、基地については抑止力を、原発については安全性を根拠として推進してきました。このように、NIMBYは、避けては通れぬが容易に解決し難い問題であるため、「パンドラの箱」と揶揄されることもあります。今回の米軍基地再編、東日本大震災を機に、改めて基地や原発が偏在することで、どんなメリット、デメリットがあるのか、それは公正なのかを、国政レベルで議論していく必要があります。同時に、多額の交付金や補助金をばらまいても、立地地域の人々の負担感は緩和されなかった原因を検証すべきです。

 このような観点から省みると、過去の政府の施設立地政策やNIMBY問題への対応には3つの失敗があったといえます。第1に、「国民全体の問題なのだという意識を醸成できなかった」ことです。米軍基地と原発立地は、沖縄・福島両県に留まらない大きな問題です。米軍基地も原発も国策であるにもかかわらず、立地地域以外の大多数の国民は、どこか遠い地域の問題、政治家の問題としてしか捉えてこなかったのではないでしょうか。第2に、「立地決定方法の稚拙さ」です。最終的には、誰かがNIMBY施設を引き受けなければなりません。合意形成には、長期に亘る粘り強い議論と交渉が不可欠です。逆に、拙速な決定は、国が地方にNIMBY施設を押し付けることになります。第3に、「住民・地域のリスク許容度に応じた税負担制度が未熟」なことです。NIMBY施設の立地に伴う便益とリスクは、その施設規模や距離によって異なるため、リスク許容度は、人や地域によって相当違うはずです。立地地域の負担を、非立地地域・消費地でも実感できる制度設計が必要です。

 こうした3つの失敗のボトルネックは、忌避されがちな施設立地政策に関する情報不足にあります。すなわち、(1)立地地域がどんなリスクを抱えるのか、(2)NIMBY施設にどれくらいの税金が投入され、どのように使われているかです。後者の場合、その総額(平成22年度)は、在日米軍駐留経費負担金で約1,881億円、電源立地地域対策交付金で約1,248億円にも上ります。国民にとって、税金の投入先が一部の利害関係者の中に留まり続ければ、NIMBYはいつまでもアンタッチャブルな問題のままです。だからこそ、情報開示が求められ、その上で、平時から基地、原発立地のあり方等に関する多面的な議論を深めていくべきです。それは、基地と原発に関して「パンドラの箱をそもそも作らない」取り組みといえるでしょう。

(2011年6月27日掲載。*無断転載禁止)
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