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マニフェストの修正について考える ‐横須賀市長マニフェストの中間検証大会を例に‐

2011年06月08日 公開
2023年09月15日 更新

茂原純(政策シンクタンクPHP総研コンサルタント)

 2011年5月25日、ヨコスカ・ベイサイドポケットにて、吉田雄人・横須賀市長のマニフェスト中間検証大会が開催されました。この検証大会の特色は、市長任期4年のうち、最初の2年間の実績を検証して、市長が自らのマニフェストについて多くの修正を表明した点にあります。当選後にマニフェストを修正することについては、賛否両論意見が分かれるところです。そこで、筆者はこの検証大会に検証委員の一人として参加する機会を得ましたので、今回の事例を通して、マニフェストの修正について考えてみたいと思います。

マニフェスト修正の3類型

 まず、検証大会において、吉田市長はなぜ修正を表明したのでしょうか。市長はその理由として以下の5つを挙げています。

  •  (1)時代や市民ニーズに合わない
  •  (2)財源の手当てが出来ない
  •  (3)議会の反対にあった
  •  (4)事実誤認
  •  (5)項目の整理や表現の変更(わかりやすくするため)

 このうち、(2)~(4)の理由に基づく修正は「撤回型修正」と言えます。つまり、何らかの自らの責に帰すべき理由により実現が困難なため、公約を撤回せざるを得ないということです。これは、吉田市長自らが、有権者に対して「素直でありたい」と検証大会でも述べているように、実現できないことを素直に認めて、次を考えるという意味では、誠実な態度であると言えます。しかし、実現できないため公約を撤回せざるを得ないということは、マニフェストの作成段階で実現性の検討が不十分だったことの現われともとれますので、批判の対象となり得ます。具体的な手段をマニフェストとして掲げたものの効果が出なかった場合などについても、同様のことが言えます。

 他方で、望ましい修正もあり得ます。その1つは(1)の理由に基づくもので、マニフェストの作成段階で認識した環境やニーズ等に、災害や金融危機等により何らかの事情変更が生じた場合、これに適応するのは自然であり必要なことです。にも関わらず、「マニフェストに掲げたから」の一点張りで、その実行に固執すれば、これは地域や住民のことより、自分のつくったマニフェストを優先する「マニフェスト至上主義者」と批判されても仕方ないでしょう。

 もう1つ、吉田市長の理由には挙げられていませんが、望ましい修正があり得ます。それは、マニフェストに掲げた政策手段よりも、同じ目的を達成する上では、より効果的と目されるものが発見された場合です。政策手段を改良できる可能性が見つかったのに、マニフェストに縛られて、これを選択しないとすれば、それは本末転倒でしょう。

 このように、同じマニフェストの修正でも、批判の対象となるネガティブな修正としての「撤回型修正」と、望ましいポジティブな修正としての「適応型修正」(適応の結果としての撤回も含む)や「改良型修正」に分類できそうです。

 ここで論点になるのが、修正の場合にどのように説明責任を果たすべきか、また、修正した場合にマニフェストの成果や進捗をどう評価するのか、という問題です。そこで先の分類に従って、この問題を考えてみたいと思います。

マニフェストを修正する場合の説明責任の果たし方

 まず、説明責任についてです。「撤回型修正」の場合は、当然と言えば当然ですが、なぜ実行できないのかを、事実に則してきちんと説明する必要があります。次に、「適応型修正」の場合ですが、どんな理由でニーズや環境がいかに変化したのか、その結果、どのようにマニフェストを修正する必要が生じたのか、を説明する必要があります。そして、「改良型修正」の場合は、マニフェストの目的に照らして、なぜ新しい手段の方が効果が見込めると考えるのか、を説明しなければならないでしょう。いずれの場合でも、自分に投票してくれた支持者はもとより、広く住民に対して、あらゆるPR手段を駆使して説明責任を果たしていくことが重要です。

修正したマニフェストをどう評価するか?

 次に、評価のあり方についてです。「撤回型修正」の場合、実現性を十分加味せずマニフェストをつくったことに非があるわけですから、原則、当初のマニフェストのまま評価することになります。したがって、評価の結果は当然低いものとなるでしょう。その上で、修正後のマニフェストの進捗・成果を評価し、次につなげていくことが大切です。

 「適応型修正」の場合は、マニフェストで修正が必要になった部分については、評価の対象外とすることが適切でしょう。なぜなら、災害や金融危機等によって環境やニーズが変化した際には、その責を誰に帰すこともできないからです。ただし、今後の参考とするためには、対象外とした修正箇所についても、何らかの形で検証結果を残しておくことが重要です。

 「改良型修正」については、当初の目的に照らして、よりよい手段に変更したはずなので、当初の目的がどれだけ達成されたか、そして新しい手段がどれほど進捗しているかを評価していくことになります。

 以上、あくまで試論の域を出ませんが、マニフェストの修正のあり方について考えてきました。マニフェストは重要な地域経営のツールではありますが、それがすべてではありません。マニフェスト至上主義に陥ることなく、地域のため、地域住民のために何を優先させるべきなのかを考えながら、柔軟なマニフェスト運営を心がけていくことが重要です。

(2011年6月6日掲載。*無断転載禁止)
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