2015年03月16日 公開
2022年12月19日 更新
こんな状況に焦燥感を抱いたのか、ギリシャはドイツに対して突然、第二次大戦の賠償として22兆円ものカネを要求した。だらしなくも強欲な外国からカネをせびられるあたりも日独の状況は酷似しているが、強いドイツはそれを一蹴した。
一方、脱原発のドイツは、大量の天然ガスを供給してくれるロシアとも経済的な面で深い関係をもっており、ウクライナ問題に絡む対露制裁では、表面上はアメリカに追随してはいるが、実際にはそうとうの経済的損失を出して困り果てている。だから、ウクライナにおけるロシアの影響力を排除するため、密かに米系民間軍事会社の戦闘員まで投入してくるアメリカに対し、一定の距離を置き始めているのである。
今年1月1日、アメリカやEUに対抗するため、ロシアは新たな新経済圏「ユーラシア経済連合(EEU)」を発足させたが、かつてアメリカの情報機関によって自らの携帯電話を盗聴されていたことに怒っているメルケル首相は、そんなEEUと自らが率いるEUとでつくる共通の経済圏構想を支持するとまで言い出している。そしてウクライナ停戦協定では、フランスを引っぱり出し、調停役として奔走した。
一方のアメリカは、表面上この停戦協定を「歓迎」しているものの、腹の中はまったく逆であり、それどころか親露・反米的にさえ振る舞うドイツに対し、明らかに苛立っている。
『フューリー』とは「激しい怒り」という意味だが、画面のなかでミンチのように切り刻まれるドイツ人たちを見ていてふと感じたのは、これはもしかしたら、いまやEUを制覇してユーロの支配権を握るだけでなく、米英系資源メジャーと激しく対立する仇敵ロシアにエネルギーの多くを依存し、かつ共通の経済圏まで構築して対抗するようにも見えるドイツに対し、激しい怒りを感じるアメリカからの「警告」なのかもしれないということだった。
実際『フューリー』では、ブラッド・ピットとメキシコ系兵士を演じた以外の俳優は、ほぼ全員がユダヤ系であるが、ここにも「ドイツ人よ、自らが犯したユダヤ人虐殺という大罪を努々忘れるな。あまり調子に乗っていると再び痛い目に遭うぞ」というメッセージが隠されているような気がする。ドイツには、弱くなってもらっても困るが、強くなりすぎても困るといったところであり、ときどき「反独プロパガンダ」という金槌で出すぎる杭を叩いておこう、というところだろうか。
話を『アンブロークン』に戻そう。前述のとおり、この映画の日本公開日時は未定であるが、その理由は日本国内における反発や、一部で盛り上がる上映ボイコット運動に配慮したからだそうだ。
しかし、私はこの映画の日本公開には大賛成である。早く公開して多くの日本人に観てもらえばよいし、私も当然映画館にまで出向いて見に行くつもりだ。そのうえで、「心配したわりに、それほどでもないな」と胸を撫で下ろし、アンジェリーナ・ジョリー監督を見直すもよいし、否、あんな描き方はケシカラン!と憤慨してみるのもよい。日本には言論の自由があるのだから、品格と度量をもって大いに知的な議論を楽しめばよい。
感情的になって「日本公開反対」と叫べば、また向こうの思うつぼになるのは明白だ。欧米のメディアは、そうやって怒声を上げる人たちの真っ赤な興奮顔をカメラに収め、「日本は右傾化し、軍国賛美の風潮が増している」といって、鬼の首を取ったかのようにそのイメージを世界中に配信するだろう。そうなると、今回の情報戦もまた「先方さんに軍配」という具合になる。
異論、反論があれば、酒を片手にでも外国人と正面から向き合って、 冷静に言うべきは言い、また聞くべきはじっくり聞けばよい。これによって日本の言い分を理解する外国人が増えれば、そんな彼らがそれを海外でも拡散してくれるだろう。
そうなれば、いまだに流される反日戦時プロパガンダが、もはや完全なる過去の遺物と化していることにやがて世界中が気付き始めるに違いない。これこそが、一般国民が誰でも参加可能な本当の意味での国家防衛(ナショナル・ディフェンス)のかたちだと思うが、いかがだろうか。
丸谷元人(まるたに・はじめ)ジャーナリスト
1974年生まれ。オーストラリア国立大学卒業。同大学院修士課程中退。オーストラリア国立戦争記念館の通訳翻訳者を皮切りに、長年、通訳翻訳業務に従事。現在は、講演や執筆活動、テレビ出演などもこなす、国際派ジャーナリストとして活躍中。著書に『ココダ・遙かなる戦いの道』『日本軍は本当に「残虐」だったのか』(以上、ハート出版)などがある。
<掲載誌紹介>
ISIL(イスラム国)の拠点があるイラク北部のティクリートでは、イラク軍による奪還作戦が始まっている。すでに「戦争」は起こっている。今後、米軍は地上戦を行なうのだろうか。日本は国際テロの脅威にどう備えるのか。4月号は「地獄の中東、日本の覚悟」との総力特集を組んだ。
第二特集は、「歴史の常識を疑え」と題し、先の大戦で描かれてきた歴史のストーリーに違う角度から光を当てた論考を紹介する。
他に、2大インタビューとして、観阿弥、世阿弥の流れを汲む観世流宗家・観世清和氏に、能楽堂を渋谷から銀座に移転させる理由などを聞いた。また、東大生の就職先として人気の高いDeNAの設立者・南場智子氏に、「これからの日本人に求められる4つの力」について話を伺った。若い人たちにぜひ読んでいただきたいインタビューだ。
更新:11月23日 00:05