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OECD「対日審査報告書」にみる日本の改革課題

2011年05月04日 公開
2023年09月15日 更新

金坂成通(政策シンクタンクPHP総研研究員)

 4月21日、OECD(経済協力開発機構)が「対日経済審査報告書」を発表しました。日経新聞が「消費税20%に上げ必要」とするなど、多くの報道では消費税率が強調されました。しかし報告書の内容は、日本政府の新成長戦略や、教育システムの改善に提言を行うなど、その内容は多岐に渡っています。

 OECDは34カ国が加盟する国際機関で、その目的は持続可能な経済成長、開発途上国の援助、自由貿易の拡大などです。OECD事務局は、各国の経済社会を調査し、その成果を毎年約250タイトルの報告書として出版しています。その中に、国別に経済情勢や取り組むべき課題を提言する報告書があり、今回、その日本版が発表されたのです。

 報告書では、OECDの多様な活動分野を反映し、様々な分野で提言がなされています。

 まず財政については、財政健全化目標を達成するため、歳出削減や歳入増加を含む、より信頼できる「中期的な財政健全化計画」を示す必要があるとしています。歳入面では消費税に限らず、直接税の課税ベースの拡大や労働参加を促進するなど、包括的な税制改革を通じて歳入増加を行うことを求めています。また歳出面では、公務員人件費の節減、医療・介護改革を通じた社会保障支出の増加抑制、年金支給開始年齢の引き上げなどが提言されています。

 新成長戦略については、費用を要する財政政策ではなく、規制改革を重視して、財政健全化と整合的に行うべきとしています。その改革は特定分野を目標とするものではなく経済全体に広げるべきとしています。具体的には、排出権取引制度を整備すること、自由貿易協定への参加、医療での混合診療の拡大、郵政民営化、新規起業にかかる行政上の負担軽減などがあげられています。

 教育システム改革は、幼児教育から高等教育まで幅広く提言されています。待機児童問題に対しては、幼保一体化、バウチャー制による民間事業者の参入促進などを提言しています。また、高等教育においては、奨学金の拡充や教育成果の透明性を高めること、大学における研究と産業の連携促進など、規制改革を中心に提言がなされています。

 労働市場改革については、正規・非正規の二極化を問題としています。それを受け、非正規労働者への社会保険制度の適用範囲を拡大することが提言されています。ただし、派遣労働者の利用を法的に制限することには慎重でありたいとしています。加えて、正規雇用に繋がるような訓練プログラムの充実を求めています。女性・高齢者・若者の労働市場への参加促進については、60歳での義務的退職の廃止や、若者が技能を身につけるため、ジョブ・カードの活用拡大による実践的な訓練の拡充を提言しています。

 これら一連の提言は、日本政府に数多くの規制改革を求めるものです。直接的に財源を必要としない規制改革によっても、まだまだ経済成長できることが、具体策と共に示されているともいえます。震災復興の財源を確保するためにも、日本全体が経済成長していくような、規制改革を着実に進めていくことが求められています。

(2011年5月2日掲載。*無断転載禁止)
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