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震災復興事業に改正PFIの手法を活かせ

2011年04月27日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研コンサルタント)

政府は、東日本大震災による被害額を官民合わせて16~25兆円と見積もっています。このなかには、庁舎、集会所、図書館などの公共施設も含まれます。施設の再建費用は莫大で、長期にわたる資金調達が必要になります。その財源、調達方法もさることながら、費用が最大限、有効活用されるにはどうしたら良いか、中長期的な視点から復興戦略を立てる必要があります。とりわけ、津波被害が大きかった自治体は、公共施設など社会基盤の再建と民間投資の促進を同時に実施しなければならないため、民間のノウハウを最大限に活用できる事業枠組みを整備することが課題です。

そうしたなか、東日本大震災が起きた同じ日の午前、政府は、今国会での成立を目指して「PFI法改正案」を閣議決定しています。PFI(Private Finance Initiative)とは、民間資金を活用して社会資本整備を進める手法のことです。法改正の第1のポイントは、公共施設の「収支向上」を意図していること。つまり、利用料金で公共事業を成立させることです。第2は、「公共施設等運営権」(施設の所有権を行政に残したまま施設の運営権を民間に付与する方式)の導入です。民間事業者が公共施設の運営権を得て、施設のサービス水準や利用料金を決められるようにします。改正案には、公共施設管理者の許可があれば、事業運営権を譲渡できる規定も盛り込まれています。

 こうした公共施設の整備運営手法は、諸外国で既に導入されています。例えば、イギリス・ブライトン&ホーブ市は新図書館の整備にあたって、向こう30年間の図書館サービスを民間から購入し、再開発した施設内での新図書館の配置場所についても、民間事業者の提案を採用しました。2005年にオープンした新図書館は、立地条件の良さ、開館時間の延長などから、利用者が従前の2倍に増えたそうです。

東日本大震災の被災自治体は、復興区域を法的に限定した上で、そこに自治体が整備する必要最低限の公共施設の投資コストを行政側が負担し、施設の配置やサービスの具体的な提供手法については、民間事業者に提案してもらってはどうでしょうか。震災復興事業に改正PFI法の手法を上手く導入できれば、行政と民間事業者双方の創意工夫による街の復興に役立つでしょうし、それは、有力な地域経済活性化策にもなるはずです。

こうした公共サービスを行政が民間から購入するしくみをわが国へ導入するためには、課題もあります。「公共施設の整備」に限定されている現行の補助制度を「公共サービスの購入」にも適用できるようにすることです。民間のノウハウを取り入れて公共サービスの質を高めることができれば、公共施設の収支向上と運営効率化もぐっと現実的になるでしょう。大震災への対応として政府には、喫緊の復旧対応に加え、中長期的に公共サービスを官民連携によって提供していくための制度改正も求められます。

(2011年4月25日掲載。*無断転載禁止)
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