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中国からみた東日本大地震

2011年03月30日 公開
2023年09月15日 更新

前田宏子(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

 3月11日に発生した東日本大地震には、世界中から哀悼と同情の声が集まり、中国もその例外ではありませんでした。地震発生当時、中国では第11期全国人民代表会議(全人代)第4会議が開催されており、今後5年間の経済計画(第12期5ヵ年計画)の内容がどのようなものになるのかについて国内外の注目が集まっていましたが、東日本大地震発生後は、中国のメディアも日本の地震に大きな関心を寄せるようになりました。

 地震発生直後は、地震の規模や被害の甚大さを報じる一方で、危機に直面しても秩序を失わない日本人の態度を賞賛する記事が多く見られました。また、日本の建築物の耐震技術や防災対策について説明し、中国は日本に学ぶべき点が多いとコメントする識者の意見なども紹介されました。他方、中国政府は、日本への緊急援助と国際救援隊の派遣を直ちに決定し、共産党指導者らは相次いで哀悼の意を表明しました。

 他国で大災害が発生したときに、国家の首脳がお見舞いや哀悼の意を表明するのは普通のことですが、今回、中国政府には、この地震への対応と報道を契機とし、昨年秋の尖閣諸島を巡る衝突以来、冷却したままの日中関係を改善させたいという思惑もあると考えられます。実際、2008年に中国で四川大地震が発生したときも、日中間にはチベット暴動や冷凍ギョウザ毒物混入事件をめぐる摩擦が生じていましたが、日本政府が中国の被災地に救援隊を派遣し、中国側も彼らの活躍を大きく報道したことによって、日中の国民感情は改善しました。今回の東日本大地震に関し、中国民衆の間でも被災者の方々への同情の声や支援の動きなどが出てきており、日本側でもそれについては素直に感謝しようという声が大勢を占めていますから、ある程度、国民感情が改善される可能性はあります。とはいえ、東シナ海ガス田共同開発や尖閣諸島の領有権をめぐる問題がなくなったわけではなく、日中関係の劇的な改善に結びつくかは不明です。

 福島原発事故が発生してからは、中国のメディアでも原発事故の影響について論じる報道が増えています。中国では13基の原子力発電所が稼動しており、2020年までに新たに約60基を増設する計画なので、当然ながら、中国でも原発の安全性に不安を感じる声が上がり始めました。福島原発事故の直後は、中国政府の担当者や電力会社は「原発政策に変更はない」と発言していましたが、不安を訴える世論が強まったため、国務院常務会議において、これから建設する原発の計画審査と承認を一時的に停止することが決定されました。とはいえ、中国は12期5ヵ年計画でも、これまでより引き下げたとはいえ、平均7%という経済成長率の目標を設定しています。経済成長を維持するためのエネルギー確保に躍起になっている中国が、原発を放棄することはまず考えられません。日本自身、今後原発をどうするのかについては全く予測がつかない状況ですが、いずれにせよ、中国の原発の安全性を確保するために、日本も協力していく必要があるでしょう。

 また、福島原発事故がもたらした別の影響として、中国で発生した塩の買い占め騒動があげられます。これは「放射線漏れにより海水が汚染され、塩が汚染される」、「塩には被爆を予防する効果がある」などの情報が中国国内で広がり、いずれもデマであるにもかかわらず、人々が塩の買い占めに走ったという事象です。中国政府も、これらの情報はデマであり、買い占めを行わないようにと呼びかけましたが、人々の行動を止めることはできませんでした。中国は日本にとって重要な貿易相手国でもあり、再びこのような偽情報が流布することによって、日本経済にマイナスの影響が及ぶ可能性もあります。今後、日本は中国を含む海外に対しても、原発事故の影響に対する正しい情報を公開し、誤った情報に対しては迅速に反論するための体制を強化していく必要があります。

(2011年3月28日掲載。*無断転載禁止)
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