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デトロイト市が財政破綻――遅きに失した人口減少、財政悪化への対策

2013年08月30日 公開
2024年12月16日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター主任研究員)

《PHP総研研究員ブログ2013年8月30日掲載分より》

自動車の街として世界的に有名な米国ミシガン州デトロイト市が、先月、総額1兆8,000億円超の負債を抱えて、事実上、財政破綻した。裁判所に破綻適用を申請したスナイダー州知事は、「財政に持続可能性はなく、治安悪化にも歯止めがかからない現状を踏まえると、デトロイト市は崩壊している。

市再生のためにはこの選択肢しかなかった」と述べた。なぜ、デトロイト市は財政破綻したのか。そして、負の遺産をどう精算していくのか。わが国の自治体経営でも学ぶ点が多い。

デトロイト市が財政破綻した直後、米国では地方債の金利が一時的に上昇した。財政破綻する自治体が続出するのではないかとの懸念が浮上したからだ。現在、金利は落ち着いている。

米国の格付け機関スタンダード・アンド・プアーズがレポートのなかで述べたように、「デトロイト市の債務不履行と破綻申請は特異なもので、他自治体に“問題”が波及するとは考え難い」からである。

スナイダー州知事もまた、「財政破綻は困難な一歩だが、60年間積み上げてきた“問題”に取り組むための実行可能な唯一の選択肢」と述べた。その「問題」とは何か。

1つめは、デトロイト市の負債約1兆8,000億円のうち、約8,800億円が「レガシーコスト(負の遺産)」と呼ばれる年金、医療費などで占められることである。その割合は、2017年までに「市の歳入の65%に高まる」という。

2つめは、自動車産業の衰退による税収基盤の崩壊である。基幹産業であった自動車工場の市外移転で、市は税源を失った。それが固定費の財政圧迫 ⇒ 公共サービスの縮小 ⇒ 治安悪化 ⇒ 人口・企業の市外流出 ⇒ さらなる財政悪化という負の連鎖を生んだ。

現在、デトロイト市の失業率は、約19%に達し、人口の約4割は極貧層となった。不動産価値も暴落し、この5年間で市の財産税収入は約20%、所得税は約30%へ縮小した。

3つめは、逆都市化への遅れである。これは、都市の人口や経済活動が減退し、それに合わせて都市を小さくする「縮小」や、拡大した郊外部から撤退する「縮退」を行う都市政策のことをいう。

市内には現在、8万超の廃屋が存在する。また、市域139平方マイルのうち40平方マイル以上が空き地化している。この結果、少ない予算を広い市域に非効率に投入せざるを得なくなり、それが治安悪化も招いている。

これらが財政破綻の原因である。問題は、その兆候が相当以前から現われていた可能性が高いことである。デトロイト市の「年次財務報告」を見ると、市は、少なくとも破産申請に至る10年以上前から毎年100億円規模の財政赤字であったことが判る。財政破綻の兆候への対応を怠ってきたことが破綻を現実のものとしてしまった。

債務再編がどこまで進められるかが市再生のカギになるが、実は、レガシーコストを除くと、市の歳出額は1,845億円となり歳入額1,576億円に近づく。

ここに再生の手掛かりがある。一定の安定した歳入を維持できれば、市財政は黒字に転換できる可能性がある。このことから、歳入維持のためには、「人口流出を食い止める」か「高額納税者を増やす」。

一方、歳出削減のためには、レガシーコストなどの「債務整理」は当然として、「公共サービスの提供範囲をコンパクトにし、それにかかる維持管理費の圧縮」を同時に進めていくしかない。

「財政」と「都市」の構造改革を両輪とした都市経営を進めなければ、一時的に財政黒字に転換しても、早晩、市は再び財政赤字に陥るだろう。デトロイト市の財政破綻は、産業の盛衰、人口の減少、資産負債改革に素早く対応しなければ、どのような顛末が自治体を襲うのかを示している。わが国の自治体経営の教訓とすべきである。

 

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