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消費税だけが社会保障改革の論点ではない

2011年02月23日 公開
2023年09月15日 更新

金坂成通(政策シンクタンクPHP総研研究員)

金坂成通

 2月5日、菅直人首相を議長とする「社会保障改革に関する集中検討会議」の初会合が行われました。そこでは6月までに菅首相が示す、税と社会保障の一体改革の成案を得るための議論がなされます。この会議の成果として、消費税率の上げ幅が提示されるかのような報道がありますが、果たしてどのような議論がなされるのでしょうか。

 まず最近の社会保障改革の流れを簡単に振り返ってみましょう。1990年代後半から、高齢化と共に拡大する社会保障費の伸びを抑制する方向で制度改革がなされていました。しかし、医療・介護サービスの機能不全や非正規雇用者を対象としたセーフティネット機能が乏しいことなどが問題とされ「社会保障の機能強化」が志向されるようになりました。

 具体的には、2008年11月に政府の社会保障国民会議・最終報告において、社会保障の機能強化のための改革案と、その追加所要額が試算されました。その後も、安心社会実現会議で「人生を通じた切れ目のない安心保証」が改革の理念とされ、社会保障の強化を目指しています。

 昨年末、現在の社会保障改革論議の中心である、政府・与党社会保障改革検討本部の有識者報告(2010年12月)も、「切れ目無く全世代を対象とした社会保障 安定的財源に基づく社会保障」を掲げています。自公政権の末期から社会保障改革の流れは、「社会保障の強化」路線であるといえるでしょう。

 ところが、社会保障費の拡大に対応する税財源を手当てすべきところ、ここ10年以上、歴代の政権では抜本的な税制改革が行われず、財政赤字を拡大してきました。社会保障の給付対象として大きな割合を占める高齢者3経費(基礎年金、高齢者医療、介護保険の公費負担)は、本来、国の消費税で賄うことになっています。しかし、その不足分は1999年度の1.5兆円から、2010年度の9.8兆円にも拡大しています。これらの差額は財政赤字(=国の借金)として処理されてきました。今回、仮に消費税率を5%程度上げることになっても、毎年の歳入不足を埋めるだけで増収財源を使い果たしてしまうのです。

 昨年末に閣議決定された、「社会保障改革の推進について」には、社会保障の安定・強化のための必要財源と安定的な確保、財政健全化を同時に達成するための税制改革について、「工程表とあわせ、2011年半ばまでに成案を得、国民的な合意を得た上でその実現を図る」と示されています。

 前述した「集中検討会議」の初会合では、消費税にとらわれず、多様な論点が出されています。たとえば、どのように負担を分かち合うのかを考えるべきという意見や、従来、社会保障の支え手とされてきた現役世代のための社会保障を作っていくというメッセージを出していくべきという意見もあります。短期間ではありますが、消費税引き上げのみを成果とするのではなく、年金・医療・介護・雇用・子育てなどそれぞれが抱える課題に対して、具体的な改革案が示されることを期待したいと思います。

(2011年2月23日掲載。*無断転載禁止)
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