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東日本大震災から2年 ~復興を確かなものとするために~

2013年03月14日 公開
2023年09月15日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

あの深い嘆きと悲しみをもたらした東日本大震災から早2年が過ぎた。
忌々しい大津波の爪痕は、未だに被災地の至る所に生々しく刻み込まれている。上屋がすっぽりと取り除かれ、基礎ばかりが残された景色は、まるであの日から時間が止まっているかのようだ。
多くの方々の献身的な努力によって、復興の芽吹きは確かに感じられるようになった。他方、その足取りは決して速やかで満足のいくものとは言えず、大津波の被災地は忘れられ風化しつつある、との声にも根強いものがある。

大津波によって甚大な被害を被った三陸沿岸は、これまでも津波によって多くの犠牲を払ってきた。ならば現在の復興の進捗を推し量るとき、そうした過去の経験に照らしつつ、今を見つめ返すことが重要と考える。
そこで一例として、岩手県大船渡市の「前回」を見てみたい。

死者340人、行方不明者40人、建物被害5,534世帯という甚大な被害を受けた大船渡市は、東日本大震災から遡ること51年前の1960年にも、チリ地震津波によって死者・行方不明者53人、全壊・建物流出383世帯という大きな被害を受けている。
その復興のため、湾奥に1万トン岸壁を整備するとともに、その後背地に約130万平方メートルの木材工業団地を造成し、木材貿易と関連産業の振興が企図された。また、住民の生命・財産を守ることはもとより、低地工業開発区域への企業進出を図るため、わが国初となる深海型の湾口防波堤が4年の工期を経て1967年に整備された。
ところが、その木工団地が完成した1968年に進出した企業はわずかに1社のみ。市街地に隣接する立地条件の良さに反して、企業進出が不活発であったことが当時の資料にも散見される。
その原因はやはり、津波浸水地への立地に対する抵抗感であり、特に市外企業にその傾向が強く見受けられた。そうした状況を打破するために、最も海寄りに市商工会議所を、その隣地に地元有力企業を誘致するなどの努力を重ねたものの、団地全体で企業立地が進むにはさらに多年を要したのである。

高度経済成長期という時代背景、ごく限られた津波被害地域という地理的背景、かつ復興事業の目玉として国・地方あげて取り組まれた事業背景の下でも、こうした厳しさがあったことを見逃してはならない。
ましてや、殊に三陸沿岸地域は人口の減少、農林水産業や鉱工業など主要産業の衰退と担い手の高齢化、中心市街地の空洞化など、従前から直面していた課題が、大津波被害によってさらに拍車をかけられた状況にある。
東日本大震災の被災地はあまりにも広範囲にわたるが、だからこそ、それぞれの地域事情を丁寧に紐解いた上で、日々変化する現状に照らし合わせながら復興計画の進捗を検証・評価し、その上で全域の復興状況を俯瞰しなくてはならないだろう。
その意味で、先の大船渡市の例は多くの示唆に富んでいる。曰く、復興は長い闘いになること、ハード整備はあくまで復興の一里塚に過ぎぬこと、途切れのない事業・雇用機会の確保が必要であること、そして津波はいずれまたやってくること、などである。

そこで、今後の復興の足取りを確かなものとするために、喫緊の課題として主にハード整備の観点から2点提起したい。
第一に、資機材や人材の調達について、受託企業任せにせず、政府が見通しを立てることだ。
復興計画では、当初の2~5年間にあらゆるハード事業が組み込まれている。その円滑な遂行のための予算枠の増額や工程表の策定が行われているが、その事業実施を裏打ちするリソースの確保に困難が生じている。
生コンクリートの仮設プラントは政府が緊急整備することとなったが、アスファルト合材や建設資機材などの不足と価格高騰が依然として続いている。また、新たな生産設備建設の一方で、当然必要となる運搬手段や人材確保については手つかずのままだ。
文字通り復興を加速させようとするならば、政府が復興事業遂行に不可欠な資機材や人材の必要量および供給能力を厳格に見据えた上で、国全体の公共事業量を適切にコントロールし、復興に必要なリソースが被災地に重点的に充てられるよう計画的に取り組むべきである。

第二に、短期間の事業集中を避けるよう、改めて優先順位を明確にした上で中期的に平準化することだ。
被災地では、比較的条件の良い土木・建築等への就労が進む一方で、例えば水産加工業等では人材を思うように確保できないなど、事業再建の足かせとなっている状況が顕在化しつつある。地元企業の再生が雇用の偏在によって停滞・頓挫するようでは、復興事業がむしろ空洞化の引き金となりかねない。
加えて、復興需要が一巡した後の地域需要見通しは決して楽観できるものではなく、地元企業にとっては将来計画と現状とを接合し難い状況にある。
持続可能な地域づくりに適う復興とするためには、将来的な経営見通しや人材マッチングの観点から、事業・雇用の一時的集中を緩和し、ハード整備について優先度判定を厳格に見直した上で、その事業量を中期的に平準化すべきである。あわせて、事業の進捗や住民生活の状況に即して、復興計画を弾力的かつ機動的に見直し、実効性あるものとしていくことが肝要である。

復興には、どうしても長い年月を要する。
だからこそ、被災地の切実なる願いに応え、多くの国民の負担に報いるためにも、1日も早く日常を取り戻そうという被災者の心情に寄り添いつつ、意志決定の迅速化や事業期間の短縮に努めるとともに、地域の将来を見通して中長期の視点で復興を捉え直し、かつ不断に見直し、持続的でバランスのとれた実のある復興事業としていかねばならない。

大震災から2年、復興の槌音が本格的に響き渡り始めた今こそ、その時ではないだろうか。

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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