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ハコモノ行政に大鉈を振るうチャンスが来た

2011年02月09日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研コンサルタント)

佐々木陽一 

1月24日に通常国会が開会しました。今国会では23年度予算案のほか、多くの法案が審議される予定です。その1つに「地方自治法改正案」があり、自治体が重要事項を決める際に住民投票の実施を可能とするか否かなどが議論の的になりそうです。ここで言う重要事項としては、地方債発行など大きな予算を伴うもの、議員定数・報酬など議会に関するものなどが想定されていますが、なかでも注目したいのは大規模公共施設、いわゆる「ハコモノ」建設の是非を問うものです。

 新たな住民投票について、片山総務相は「代表民主制を補完する意味で、住民投票を通じて民意をより的確に反映できるしくみがあっていい」と述べ、一定条件の下で投票結果に法的拘束力を持たせる考えを明らかにしています。これが実現すれば、大規模なハコモノ、例えば、文化ホール、公営住宅などの建設事業を議会が可決、条例化した場合でも、それを住民投票で反故にしてしまう可能性が出てきます。

 このように、住民投票の対象を拡充した場合には、幾つかの課題が生じます。その1つは、議会の存在意義が問われることです。新たな住民投票制度は、住民の政治的意思を直接表明できる機会が増えることから、住民と議会の見解が衝突する場面も想定されます。これを住民自治を鍛える機会とするには、まずは議会の説明能力が求められ、その意味で議会の存在意義が問い直されることになります。

 また、議会と住民が新たなハコモノ建設の是非を適切に判断していくためには、対話ツールとして耐えうるだけの適正・的確な情報と、それを両者で共有することが不可欠になります。具体的には、既にあるハコモノにどれくらいの維持管理コストがかかり、将来、どう変化していくのか。その上で、新たなハコモノのコストが自治体経営にどんな負担をもたらすのか、その将来コスト負担に自治体財政が耐えうるのか。こうしたハコモノにかかるコストの実態と将来予測が把握され、それらが議会、住民にも分かりやすく可視化されることが必要です。

 新たな住民投票制度をめぐって、国は、自治体にその制度創設を強要せず、自ら望んで関係条例を整備した自治体だけに認める方針です。自治体には、住民投票の拡充とともに政策情報の可視化を積極的に進め、多くの自治体にとって懸案のハコモノ改革に大鉈を振るうことで、自治体経営と住民自治に新しい時代を拓いていくことが望まれます。

(2011年2月7日掲載。*無断転載禁止) 政策シンクタンク PHP総研 Webサイト【http://research.php.co.jp/】(PCサイト)
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