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自治体広報の編集を新聞社が請け負う時代に

2012年11月06日 公開
2023年09月15日 更新

茂原純(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センターコンサルタント)

 福山市が役所の広報紙の作成に市民記者を採用するなど、全国の自治体では広報紙の記事を充実させたり、読みやすくしたりする取り組みが行われている。そうした中で、今年、栃木市は広報紙の編集を地元新聞社へ委託した。全国的にも珍しいこの取り組みが、どのような効果を生み出しているのか。栃木市の事例をもとに、今、自治体広報に何が問われているかについて考えてみたい。

 栃木市は1市4町の合併に伴い、広報紙の情報量が増大した結果、「文字ばかりで読みにくい」などの声が市民からあがっていた。そこで、各地域協議会や自治会連合会等の各種団体からの推薦者と公募委員から構成される「広報とちぎ紙面検討委員会」を設置。ここでの検討結果も踏まえ、広報紙のA3版化(県内初)、ページ数の削減、編集業務の外部委託等が決定し、委託先として地方紙である下野新聞が選ばれた。2012年8月号から新しい広報紙が発行されている。

 新聞社への委託のメリットとしては、地域情報に精通した独自の取材網を活用でき、職員だけでは考えられなかった企画が考案できること。そして、記事の信頼感、読みやすさなどがある。他方、コストについては編集の委託費(月40万円程度)が割り増しとなった格好だ。栃木市の場合はもともと広報専任の職員が2名であったが、委託後に人員は削減していない。今後はページ数を圧縮する一方で、新しい切り口のコーナーの充実に取り組んでいく模様だ。

 現在、栃木市と下野新聞は月に2回の編集会議を行っているが、この委託を行ったことにより、広報担当職員の負担が減ったことは明らかだ。もちろん、必要なチェックは行うだろうが、今まで直接担当していた記事の作成や写真撮影などの業務がなくなることはもちろん、校正も含めた編集作業は新聞社に任すことができる。担当者によれば、こうして確保できた時間を使って、今後は広報紙の新コーナーの充実やソーシャル・メディアの研究に取り組んでいきたいとのことである。

 自治体財政が厳しさを増す中、市民の痛みを伴う政策が増えるにつれ、行政が説明責任を果たすことがより一層求められる。このため、政策に関わる広報の比重がますます高まることが予想される。その際には、政策という、わかりにくく、市民が関心をもちにくいことを、いかにわかりやすく、関心をもってもらえるように伝えられるかが鍵となり、まさにここにプロの力を借りる余地がある。

 そうした意味では、地元紙は自治体の政策についても取材を通して精通している。政策の背景知識と編集力の双方を兼ね備えているので、役所と市民の立場の間に立ちながら、いかにわかりやすく伝えられるかについて、力を発揮できる可能性が高い。今後、地元紙がどのような政策広報を展開するのか、注目していきたい。

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