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大阪府市の外部ブレーン活用の特徴とは?

2012年10月01日 公開
2023年09月15日 更新

茂原純(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センターコンサルタント)

 大阪市と大阪府は「大阪都構想」をはじめとした改革を進めるため、上山信一・慶應義塾大学教授や、作家で元経済企画庁長官の堺屋太一氏らの専門家を特別顧問などに起用し、メディア等から注目を集めている。いままでも他の多くの自治体で、審議会等の委員やアドバイザーという形で、外部ブレーンは活用されてきたが、大阪府市の専門家の起用方法にどのような特徴があるのか、考えてみたい。

 まず、よく指摘されるのが、登用する専門家の数が多いということである。8月29日の時点で大阪市では特別顧問18人と特別参与45人の計63名、大阪府では特別顧問16人と特別参与43人の計59名が委嘱されている。メンバーの総数を見れば多いと感じるかもしれないが、例えば大阪市で見れば、顧問と参与は府市統合本部、同本部関連で大学、都市魅力、経済、エネルギー政策、交通事業、大都市制度の計6分野。さらに人事、区政、財政、西成特区構想、グローバルイノベーション創出支援環境と全部で12分野に割り振られている。平均すると、各分野でだいたい5人の計算になるが、審議会の一般的な委員数と考えれば、さほど多いとも言えない。

 次に、特別顧問が市長に直接提言できるアドバイザーとして影響力を行使しているとの見方がある。だが、そうした市長のアドバイザーは他の自治体でも設置されている。例えば、豊中市では「まちづくり政策アドバイザー」、鎌倉市では「市政アドバイザー」を設置しており、市長の要請に応じて助言を行うものとされている。さらに、市長に直接提言できる特別顧問の数が多いということが言えるかもしれないが、例えば名古屋市では、市長に直接提言できる経営アドバイザーを設置しており、2012年8月31日現在、11人のアドバイザーが経営会議やその他の会議にも参加している。したがって、大阪府市の特別顧問が圧倒的に多いということでもなさそうだ。

 最後に、2点目とも関連するが、特別顧問が「指導」という役割を担っていることについてはどうだろうか。特別顧問は「助言」のみならず、「指導」を行う者として規定されている。しかし、実はこれも大阪市府に限ったことではない。例えば八王子市では役所内にシンクタンク「都市政策研究所」を設置しているが、その中に都市政策アドバイザーを置き、政策の内容のみならず、「研究所の研究活動等への指導」もその職務として規定している。研究・提言へ向けた指導をするという点では同じと言ってよいだろう。また、筆者は大阪市の職員にヒアリングを試みたが、特別顧問が強力なリーダーシップを発揮して提案をとりまとめるというより、検討すべき内容や今後の進め方などの「指導」も含めて、職員が特別顧問に助言を求めるのが基本のようである。

 こう見てくると、専門家の活用方法といった点では、従来と比べて取り立てて大きな特徴はないように見受けられる。とすれば、なぜ大阪府市の改革のために登用された専門家が活発に活動しているように見えるのか。筆者は次の3点があると考える。

 第一に、高度な専門性が要求される改革だということ。例えば、府市統合本部が府市事業の経営形態の見直しを行う際には経営分析を実施している。役所の職員を中心につくった案にコメントだけをもらうのとは異なり、検討方針の決定から全工程にわたって職員もこまめに助言を受ける必要が出てくる。第二に、市長のリーダーシップである。役所職員に丸投げせずに、自分で判断するために多様な意見を聞く姿勢がある首長であれば、それだけ専門家の活躍の場が広がるのも当然である。さらに、首長が信頼している専門家に職員も意見を聞かざるを得ない。第三に、既得権に切り込む改革だということ。役所の利益を温存しようと職員が積極的に協力しない可能性もある中で、首長はそうした動きを牽制するためにも、外部ブレーンを登用して活用しなくてはならない。

 以上をまとめると、専門家の活用方法自体に際立った特徴はないが、それだけ専門家を活用しなければ成し遂げられない一大改革にトップがリーダーシップを発揮して取り組んでいるということに尽きるのではないだろうか。また、そのリーダーシップに期待するからこそ、多くの専門家が協力を惜しまないとみることもできるだろう。 (2012年10月1日掲載。*無断転載禁止)

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